米メリル:温情ある企業文化自ら捨てたオニール氏,今度は自分が犠牲に

ウォール街での自らの経歴に終止符を打つ のに、株主に損をさせるほど確実な方法はない。米証券大手メリルリンチのス タンレー・オニール最高経営責任者(CEO)は今月、同社創業93年で最悪の ニュースを株主らに伝え、それを思い知ることになった。

メリルの2007年7-9月(第3四半期)損失は22億4000万ドル(1株当 たり2.82ドルと、オニールCEOが5日に認めた額の約6倍。メリルはまた、 サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連や資産担保証券、融資 債権などで84億ドル(約9600億円)の評価損を計上した。

メリルの四半期赤字は証券業界全体でも過去最悪の規模だった。事情に詳 しい関係者によれば、オニール氏がCEOとして5年の間に選んだ9人を含む 11人で構成する取締役会は、早ければ29日中にもオニール氏の辞任を発表する 見通しだ。

90年以上の歴史のなかで、内部からCEOを起用し、ときが来れば名誉あ る引退を穏やかに促す企業文化を築いてきたメリルにとって、このようなCE O更迭は異例のことだ。メリルを愛する幹部の多くを排除するオニールCEO を苦々しく思ってきた前任者たちは、彼らがかつて「マザーメリル」と呼んだ 証券会社の変貌ぶりをあらためて見せ付けられた。

1992-96年にかけてメリルのCEOを務めたダニエル・タリー氏は週末に インタビューに答え、「多くの現・元従業員らと話した」が、業績について「皆 『ひどい』と思っている。私もそうだ」と語った。

メリルの取締役会はこれから、オニールCEOの後任を選ばなければなら ない。同CEOは、タリー氏やその後継者のデービッド・コマンスキー前CE Oが育てた次世代リーダー候補の多くを社外へ追いやってしまった。社内の人 材は乏しくなり、取締役会は社外に次期CEOを求めなければならないかもし れない。

減った人材

オニール氏にメリルを追われたなかには、執行副社長だったトマス・パト リック氏や投資銀行部門責任者だったアーシャド・ザカリア氏がいる。06年に はより大きなリスクを取る投資銀行への変身を目指した組織変更のなかで、ダ グ・デマーティン氏やハリー・レングスフィールド氏、ジェフ・クロンタール 氏らがメリルを去った。

オニール氏が01年に社長に就任した後にメリルの国際ブローカー部門を去 ったウィンスロップ・スミス氏は、オニール氏は「合わせて何百年もの経験を 持つ人々を失った」として、「過去の問題を経験している人を失えば、同じ間 違いを繰り返す確率は高まる」と指摘した。オニール氏の広報担当者はコメン トを控えた。

オニール氏の後任として最有力候補は資産運用会社ブラックロックのロー レンス・フィンクCEO(54)だ。メリルの共同社長グレゴリー・フレミング 氏(44)やブローカー業務責任者のロバート・マキャン氏(49)も候補だ。

メリルは米銀最大手のシティグループを抜き、債務担保証券(CDO)の 引き受けで1位に浮上した。また、レバレッジド・バイアウト(LBO)に直 接参加することでリスクを高めた。06年12月にはサブプライム住宅金融会社の ファースト・フランクリンを買収した。

メリルらしくない

オニールCEOはメリルを、タリー氏が残したメリルよりもむしろゴール ドマン・サックス・グループに近い姿に変えた。06年のメリルのブローカー部 門の収入は全体の34.9%にすぎなかった。オニール氏がCEOに就任した02年 には49.3%だった。メリルの利益と報酬は急増した。06年の純利益は前年比47% 増え、過去最高の75億ドル。オニールCEOの報酬は4800万ドルと、03年に 比べ2000万ドル増えた。

CIBCワールド・マーケッツは、メリルが10-12月(第4四半期)にさ らに40億ドルの評価損を計上する可能性があると指摘した。ゴールドマン・サ ックス・グループとUBS、ワコビア、サンフォードCバーンスティーンはメ リルの決算発表翌日の25日、同社の投資判断を「ホールド」に引き下げた。

オニール氏は、自らがメリルに持ち込んだ新たな企業文化の犠牲になった。 同CEOの下では、有用性の薄れた幹部には退社や降格が待っていた。ウォー ル街の他社に比べ寛容で従業員を大切にすることから付いた「マザーメリル」 という呼び名は、オニールCEOをいら立たせた。同氏はCEOになる前の02 年に、「マザーメリルとか、ゆりかごから墓場までなどということは不可能だ」 し、「賢明でもない」と語っていた。

オニール氏は02年12月にCEOに就任した。前任のコマンスキー氏は03 年4月に会長を辞しメリルを去った。引退するメリルの歴代トップの特権とし て、コマンスキー氏はマンハッタンの5番街にあるオフィスを提供された。オ ニール氏はこれを望めないかもしれない。