商品トレーダーの争奪し烈、増す報酬と影響力-信用収縮の米金融業界

米JPモルガン・チェースや米リーマン・ ブラザーズ・ホールディングス、フランスのBNPパリバによると、米金融業 界で最も脚光を浴びている「商品」は、原油や小麦、金属のトレーダーたちだ。

2002年から商品業界で人材紹介を手掛けるオプションズ・グループ(ニュ ーヨーク)によると、銀行や証券会社による商品トレーダーの採用総数はこと し、過去最高の450人に達した。06年時点から33%増加した。この数は、昨年、 証券業界で新規採用された1万3100人のわずか3.4%だが、商品トレーダーは 引く手あまただ。このため、 人材紹介会社は解雇された住宅ローン担保証券(M BS)の販売担当者を商品トレーダーの求人枠に回している。

リーマンは商品部門の人員を200人に倍増させ、JPモルガンは45人増や し総勢170人とした。JPモルガンに採用されたトレーダーのなかには、ドイ ツ銀行で米国の電力・ガス取引部門の責任者を務めていたフォスター・スミス 氏や米ゴールドマン・サックス・グループで原油取引に携わっていたアンドル ー・ハリソン氏がいる。

JPモルガンの商品部門世界責任者のブライス・マスターズ氏(38)はイ ンタビューに応じ、サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連で 巨額の損失が出たことは、商品市場には何の影響も及ぼしておらず、商品業界 の採用はこれまでにないペースで増えているとの見方を示した。ブルームバー グが集計したデータによると、証券会社のサブプライム関連の損失は総額210 億ドル(約2兆4400億円)に上る。また、英銀3位バークレイズの投資銀行部 門であるバークレイズ・キャピタルのエネルギー・金属・欧州電力・ガス取引 部門責任者のロジャー・ジョーンズ氏はインタビューで、同社では天然資源担 当部門は人員削減の波から「守られた領域」であると語る。

金融サービス業界を対象とするコンサルタント、イーサン・ラビッジ氏 (サ ンフランシスコ在住)によると、世界の証券会社上位10位の商品取引による収 入はことし、20%増の総額150億ドルに達するとみられる。米景気の減速や過 去16年で最悪の住宅市場の低迷を背景に、米金融業界で2300人以上が解雇さ れるなか、原油や穀物、金属相場の高騰によりトレーダーの需要は急増してい る。

人材争奪戦

リーマンの世界商品担当の共同責任者で、米エネルギー大手ダイナジーの 元会長、チャールズ・ワトソン氏(57)は「優秀な人材の争奪戦がここ数年間、 激化しているのは間違いない。現在、ピークに達している」との見方を示す。

リーマンはことし、ゴールドマンからエネルギートレーダーのジェフ・フ レーズ氏とロイ・サラーム氏を採用した。一方、リーマンは今月、住宅ローン を手掛けるオーロラ・ローンの人員を850人削減すると発表した。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェブサイトによると、原油と ガスの取引は1990年代の2倍のペースで拡大している。90年代には、当時、世 界最大のエネルギー取引会社だったエンロンが、エネルギー先物の需要ブーム をけん引していた。NYMEXの原油相場は年初来で44%上昇し、1バレル当 たり88ドル台に乗せた。

また、159年の歴史を誇るシカゴ商品取引所(CBOT)では、小麦相場が 年初来で65%高騰し、1ブッシェル当たり8.285ドルに、大豆相場も46%上げ、 同9.9675ドルに達した。これを受け、同取引所の農産物取引は年初来で26%拡 大している。

商品部門の拡充

米モルガン・スタンレーは2日、サブプライム住宅ローン関連の収入減の 影響により、住宅ローン組成・サービス事業部門の人員の約25%に当たる600 人を削減する計画を発表した。一方、同社の商品マーケティング担当世界責任 者、マルク・ミュレ氏(ロンドン在勤)によると、商品部門はことしに入って 7月までに40-50人を採用し、総数は約320人となった。

欧州最大の銀行、スイスのUBSは1日、サブプライム住宅ローン担保証 券投資関連でヘッジファンドが損失を出したことや同証券の評価額の引き下げ を背景に、1500人を削減する計画を発表した。一方、同社の商品部門世界責任 者、ピーター・ガバミ氏(39)は、ブルームバーグの質問に電子メールで回答 を寄せ、主に他部門からの異動により、過去2年間で商品部門の人員を60%拡 充していることを明らかにした。同氏は、商品部門の人員数についてはコメン トを避けた。

ドイツ最大の銀行、ドイツ銀行の商品部門の世界責任者、デービッド・シ ルバート氏によると、同銀はことし、商品部門の人員を倍増させた。シルバー ト氏自身もことし、米メリルリンチからドイツ銀に入社した。また、BNPパ リバの商品デリバティブ(金融派生商品)世界責任者、アミネ・ベル・ハジ・ ソウラミ氏(44)はインタビューに応じ、同社が商品部門の人員を2010年まで に、現在の160人から60人増員する計画を明らかにした。ことしは40人増員 する予定だという。

トレーダーから役員室へ

通常、最も利益を上げる部門の社員が幹部を務めるこれらの企業では、重 要な地位を占める商品トレーダーが増えている。

メリルの商品部門世界責任者、デービッド・ソボトカ氏(51)は今月、確 定利付き証券・為替・商品部門の責任者となった。時価総額で2位の証券会社、 モルガン・スタンレーの元エネルギートレーダーだったニール・シア氏(53) も2年前から重要な役割を担うようになった。

ゴールドマンのロイド・ブランクフェイン最高経営責任者(CEO、53) は、 同社の商品部門であるJ・アロン・アンド・カンパニーで金の販売担当者とし てキャリアをスタートさせた。

商品相場の高騰に伴って商品トレーダーの報酬も膨れ上がっている。モル ガン・スタンレーが米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、シ ア氏の06年の報酬は3500万ドルと、上司であるゾーイ・クルーズ共同社長 (52) の3000万ドルを上回った。

「人材争奪戦」

人材紹介会社プリンシパル・サーチのポール・クリスピン氏によると、銀 行で勤務する商品トレーダーの報酬は最高で年間1000万ドルと、02年当時の5 倍に上る。人材紹介会社ナピア・スコット・エグゼクティブ・サーチの債券・ 商品部門責任者、アダム・ジャマ氏は、英BPやフランス電力公社などのトッ プトレーダーが米金融業界に転身すれば、少なくとも80%報酬が増えるとみて いる。BPのトニー・ヘイワードCEOは7月、銀行への人材流出が相次ぐな か、同社はエネルギートレーダーを引き留めるために「ばかげた額の報酬」を 支払うつもりはないとの見解を示した。

バークレイズのジョーンズ氏は「一部の銀行は全社的に採用を凍結してい るが、バークレイズはそのような方針は取っていない。商品分野では優秀な人 材の争奪戦は活発だ」と述べた。同社は、米サブプライム住宅ローン部門、エ クイファーストと英クレジットカード部門で人員削減を進めている。一方、商 品部門の人員は20%増やし、08年には300人とする計画だ。

「力強さを増している」

JPモルガンのマスターズ氏によると、サブプライム住宅ローン市場の低 迷による「同社の商品部門の拡充計画への影響はなく、今後も影響を及ぼす可 能性も低い」と指摘。「実際には、資産区分としての商品の力強さは増している」 との見方を示した。同氏は、商品部門の人員を08年に30%拡充することを計画 している。

原油や銅、船舶の先物市場は、来年には相場が下落する可能性を示唆して おり、トレーダーやアナリストの間では、強気相場が終息するとの懸念が高ま っている。

金融サービス業界を対象としたコンサルタント会社グリニッチ・アソシエ ーツ(コネティカット州)のマネジングディレクター、フランク・フィーンス トラ氏は「商品市場への関心が衰え始めた時、それがだれの責任であるか分か るだろう」と述べ、「商品業界で働き始めたばかりで何の利益も得ていない人間 にとっては、商品相場が下落に転じた時、自分の存在を正当化するのは難しい かもしれない」との見方を示した。

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