【経済コラム】バーナンキ議長よ、二の舞いを演じるな-W・ペセック

日本銀行の福井俊彦総裁はますます、アジ アのグリーンスパンになってきた。

これは、同総裁の就任時に日本の多くの政治家が望んだことだ。2003年3 月の同総裁の就任時には、多くの議員が「アジアとはいかないまでも、日本の グリーンスパンになれ」と激励したものだ。これは、当時の米連邦準備制度理 事会(FRB)議長の市場への影響力と金融政策の威力に言及したものだ。

日本の政治家の望みは実現し、福井総裁はグリーンスパン前議長に似てき たが、それは大方が望んだのとは異なる意味でのことだ。市場は今、グリーン スパン前FRB議長が日本の金融政策に手本を示した結果の付けを払っている。 グリーンスパン前議長と同様に、福井総裁は超低金利で海外にバブルを発生さ せた。

福井総裁の支持者にとって、これは予想外かもしれない。福井総裁は1998 -2003年の速水優・前総裁時代に失われた日銀への信頼を回復した。福井総裁 への高い評価はときに、ボブ・ウッドワード氏の手になる伝記で「マエストロ (巨匠)」と呼ばれたグリーンスパン前議長を彷彿(ほうふつ)させるほどだ。

1987-2006年のグリーンスパン前議長の在任期間について都合よく忘れ去 られているのは、中国、ひいてはアジアの資産バブルに前議長が演じた役割だ。 2000年代の前半を通じて前議長が維持した異常な低金利は、高リスク資産への 投機を呼び、安価なマネーを原動力とした中国投資バブルを生んだ。

話はそれるが、グリーンスパン前議長は米国のサブプライム(信用力の低 い個人向け)住宅ローン問題についても潔白ではない。エドワード・グラムリ ック元FRB理事は6月、米紙ウォールストリート・ジャーナルに、グリーン スパン前議長がサブプライム金融会社への監督強化案に反対したと語った。

ウォール街の救世主

ウォール街はグリーンスパン前議長に寛容だ。メキシコ危機やカリフォル ニア州オレンジ郡政府の財政破たん、ヘッジファンドのロングターム・キャピ タル・マネジメントの事実上の破たん、インターネット株バブルの破裂など数々 の危機に際していつもウォール街を守ってくれた前議長に恩義を感じているの だろう。

それが金融当局の仕事だという意見もあるかもしれない。政治的要求のな かであらゆる経済的手段を指揮する天才的手腕が、ウッドワード氏をして前議 長をマエストロと言わしめたとも考えられる。

しかし、これらの対策は多くの場合、ウォール街のトレーダーの救済を意 味した。その副作用の1つをエコノミストらは「バブル・フィックス」と呼ぶ。 市場を落ち着かせるための中銀の行動が、経済的不均衡を生む。

バーナンキよ、お前もか?

バーナンキ現FRB議長も同じことをするのだろうか。17日の米公定歩合 引き下げ後、この問いへの答えはまだ出ていない。米金融当局はサブプライム 問題が信用市場全体に拡大するのを阻止するため、緊急会合で公定歩合引き下 げを決めた。しかし、より強力な政策手段であるフェデラルファンド(FF) 金利の誘導目標は動かさなかった。FF金利の誘導目標引き下げは市場と、バ ーナンキ議長が市場に向き合う姿勢についての投資家の見方に対し、より劇的 な影響を与えただろう。

米連邦公開市場委員会(FOMC)がほんの10日ほど前にインフレ懸念を 表明したことを考えると、バーナンキ議長の行動は賢明だった。9月18日のF OMCでFF金利の誘導目標が引き下げられれば、問題となる。住宅金融会社 は自ら危険を冒したのだから、その結果から金融当局が各社を救済する必要は ない。

グリーンスパン前議長が04年半ばに利上げを開始した時点では、アジアに とってはもう遅過ぎた。ぜんまい仕掛けのように、米国の低金利は投機資金を アジアに流れ込ませ、流入資金は03年にはアジア金融危機直前の1996年に付 けた前回のピークを超えた。最も多くの資金が流入したのはもちろん中国で、 同国では不動産や株式にバブルが発生した。

米国と日本の低金利は相乗的に作用した。日銀は22日から、2日間の政策 決定会合を開くが、福井総裁が政策金利を現行の0.5%から引き上げる可能性は いたって低い。据え置きならば、円で借り入れ高利回り資産に投資するキャリ ートレード再開への青信号ともみなされかねないだろう。円借り取引は世界に バブルを輸出している。

デリバティブとレバレッジ

安価なマネーが膨らませたものの1つがデリバティブ(金融派生商品)取 引だ。リターン追求は債務担保証券(CDO)市場を急成長させ、その結果、 世界の金融システムはその規模が明らかでないレバレッジとリスクを抱え苦戦 している。

経済のグローバル化により、米金融政策がアジアに及ぼす影響は米国の当 局者が考えるよりも強くなった。バーナンキ議長の仕事はもちろん米経済のか じ取りだが、その政策が世界を安価な資金でジャブジャブにしないことを望み たい。

今や民間人となったグリーンスパン前議長は、中国のバブルについて警告 している。投資家マーク・ファーバー氏が言うのならともかく、グリーンスパ ン前議長が口にすべきことではない。中国がバブルだというのなら、前議長は 「マエストロ」ではなく、「ミスター・バブル」と呼ばれるべきだろう。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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