【経済コラム】アジアのリスク、今度は米国が感染源-W・ペセック

オーストラリアのクーラムで先週開催され たAPEC財務相会合は、示唆に富む結論で終わった。21の国・地域が参加す るAPECは、もちろんアジア太平洋経済協力会議の略称だが、いまや「協力 (Cooperation)」の代わりに、「うろたえ(Consternation)」という言葉を あてたAPECとしたほうがふさわしいかもしれない。

米国はアジアを貯蓄率が高過ぎ、自国通貨を安く抑えていると非難。一方、 アジア諸国は米国こそ貯蓄が少な過ぎ、アジアの資金に依存し過ぎていると非 難していることがAPECの舞台であらためて示された。

日本は中国が人民元を不当に安く抑えていると批判しており、同じ理由で 日本を批判している韓国は、その語調を強めている。中国は、あちこちから批 判され立ちすくんでいるかのようだ。

今回のAPEC財務相会合は、世界市場が不安定になる中で開催された。 対応策を協議するというより、むしろ不均衡の責任が誰にあるのかで慌てふた めいていたようだ。ポールソン米財務長官の欠席は、同長官が考えているより 大きな問題だ。クーラムを訪れていたフィリピン中央銀行のギニグンド副総裁 は筆者に対し、「今回の市場の不安定さの多くは、米国のサブプライム(信用 力の低い個人向け)住宅ローン市場からの感染によるものだ」と述べた。

皮肉

これは世界の金融市場における最大級の皮肉に違いない。10年前の金融危 機はアジアが発信源となり、世界中がおののいた。タイが1997年7月にバーツ 切り下げをしてからの数カ月間、米当局は市場に対し、アジアの問題は封じ込 めることができると繰り返し説明。だが、米株式市場の指標、ダウ工業株30種 平均が1日で数百ポイントの下落を見せ始めると、投資家はそれ以上の認識に 至った。

ポールソン長官の最近の発言は、10年前の米当局者の言葉に気味悪いほど 似ている。先週中国を訪れた同長官は、米経済は十分「健全」で、市場の現在 の相場下落を乗り切れると述べた。だが、経常・財政収支で巨額の「双子の赤 字」を抱える米経済の住宅市況が過去16年間で最悪となっている状況では、ポ ールソン長官の言葉も説得力に乏しい。

アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁はクーラムで、アジアは97年以 降、大きな進展を遂げたと言及した。銀行の安定性が高まり、外貨準備高は大 きく増えた。各国政府は金融システムの近代化と統合を進めている。同総裁は、 「考慮すべき多くのリスクがあるが、アジアはこれに対応できる能力があるよ うだ」と語った。

ヘッジファンド業界にとっても、少し皮肉な展開だ。ヘッジファンドは97 年、アジア通貨に投機取引を仕掛けたとして批判された。2002年以後、アジア ではヘッジファンドが急増。だが、この急成長を妨げようとしているのは、ア ジアではなく米国の問題だ。コステロ豪財務相は、「現在の調整は米国の弱さ に起因している。このことは世界がいかに相互に結び付いているかを示してい る」と述べた。

世界におけるこうした役割の逆転は息をのむほどだ。97年にアジア金融危 機が世界に影響を与える可能性を小さく見せようとしたように、米国は現在、 自らの問題は封じ込め可能だと主張する。

感染源

投資家はようやく今になって、過去数年間の世界的なリスクに対する評価 が間違っていたことに目覚めつつある。債務担保証券(CDO)発行と買収相 手の資産を担保に資金を調達し買収を実現するレバレッジド・バイアウト(L BO)で、市場はどん欲になり過ぎた。

コステロ財務相は、APEC会合では「より急激な再調整が起こった場合」 の対応策などを議論したことを明らかにした。APECが具体策を打ち出せば、 それなりの安心感につながる公算もあったが、結局出てきた結論は、いつもな がらの空虚な為替相場の柔軟性向上の呼び掛けだった。

日本に対し、キャリートレードの誘因を減らす対策を講じるよう求める声 もなかった。低金利の円で資金を借り入れ、高金利通貨建ての資産に投資する キャリートレードこそが、高リターン(投資収益)を狙うリスクの高いヘッジ ファンドの取引の多くをあおっているのだ。

日本は円高容認にいまだ消極的だが、他国にはそれを促す勇気もない。多 くのリスクに直面する中、うろたえるのではなく「協力」することこそがAP ECの安らぎになるはずだ。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)