カーライル:日本半導体への投資拡大に意欲-流入する巨大マネー(2)

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日本の半導体産業に、プライベート・エクイ ティ(PE)をはじめとする投資ファンドが熱い視線を注いでいる。半導体市場 の構造変化とともに、世界の巨大マネーが堰(せき)を切ったように流入し始めた。 その代表格が、米投資ファンド大手カーライル・グループ。全世界で約5兆5000 億円の運用資金を持ち、日本企業への投資を専門とした2156億円のファンドも設 立した世界有数の同社が、半導体関連企業への投資を積極化させている。

カーライル日本の丸茂正人マネージング・ディレクターは11日、都内の講演 会で「日本でも半導体関連企業に投資していきたい」と意欲を示した。今後の投 資先については、すそ野の広い半導体産業において、材料メーカー、半導体メー カー、製造装置メーカーなど幅広く検討し、ポートフォリオのバランスを取る考 え。「強い1-2社に絞ってコミットし、サポートしていくのが理想的なアプロ ーチ」としている。

2006年、カーライルは世界中の半導体関連企業への投資を一気に加速した。 最大の案件は、米モトローラの半導体事業を前身とする大手半導体メーカー、フ リースケールの買収。他に、台湾の半導体製造の後工程に携わるパッケージン グ・検査装置メーカー大手、アドバンスト・セミコンダクター・エンジニアリン グ(ASE)にも、約55億ドルで買収提案を行っている。

日本では昨年10月、東芝の関連会社で半導体材料メーカー、東芝セラミック ス(6月1日からコバレント・マテリアルズに社名変更)が実施した約1400億円 のMBO(経営陣による自社買収)に参加。カーライルは、国内ファンドのユニ ゾン・キャピタルと折半で500億円の投資を決めた。

これまでの投資先の業態を俯瞰すると、半導体シリコンウエハーメーカー、 半導体メーカー、半導体検査装置メーカーなどが主で、半導体製造装置メーカー では大きな実績がない。丸茂氏は、次の投資先を選ぶにあたり「フリースケール やASEなど投資先の直接的なライバルメーカーを、アプリオリ的には考えな い」と指摘。カーライルが、製造の前工程に携わる半導体製造装置メーカーに関 心を示す可能性もありそうだ。

06年のM&A、3倍の570億ドル

ブルームバーグ・データによると、2006年にアジア・太平洋地域で起きたM BOなどM&A(企業買収・合併)の総額は570億ドル(約6兆5550億円)と、 前年の3倍に達した。公表ベースをもとにブルームバーグ・ニュースが集計した 全世界の半導体メーカーのM&A総額は309億ドル(約4兆2400億円)と過去最 高で、前年比4倍に拡大している。

世界的なカネ余りを背景に、ファンドにとって半導体産業は有力な投資先に なりつつある。カーライルの集計によると、ファンドを活用した日本でのMBO 実施額は06年に4500億円を超えた。日本でもMBOなどが増える見通しで、カ ーライル・グループ日本代表の安達保氏も「電機・半導体業界はMBOやファン ドを活用した再編が増加する業界の1つ」と予想する。

新光証券の大竹喜英アナリストも「日本の半導体産業でM&Aはあまり好ま れなかった実情がある」としつつも、「上位2-3社しか生き残れない時代に、 大型のM&Aが起きる可能性はある。PEなどは、その触媒となるかも知れな い」と言う。メモリーとシステムLSIはいまだ過当競争のなかにあるが、半導 体メーカーにせよ半導体製造装置メーカーにせよ、多くの分野では寡占化が進ん でいる。

中央演算処理装置(CPU)は米インテルと米アドバンスト・マイクロ・デ バイシス(AMD)の2社が、半導体露光装置(ステッパー)は蘭ASML、ニ コン、キヤノンの3社が、半導体のトランジスタ加工を担うエッチャーや成膜装 置は米アプライド・マテリアルズ(AMAT)と東京エレクトロンの2社が、そ れぞれの市場の覇者だ。

国内外のファンド28社が2005年に設立した日本プライベート・エクイティ 協会によると、加盟社の総資金量は06年末までに9兆円に上る。05年までは3 兆円程度だったが、米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)や米CIT ICキャピタル・パートナーズといったファンド会社が加わり、3倍に資金量が 膨らんでいる。海外を中心に機関投資家の資金が集まっており、日本のM&A市 場拡大を後押しする要因になりそうだ。

2兆円級の買収劇

昨年9月。半導体業界に衝撃が走った。米投資ファンド3社がフリースケー ルを176億ドル(2兆円700億円)で買収するというニュースが伝わったためだ。 同社は、通信、自動車、産業機器向けの半導体で強みを持つ。日本の半導体メー カーが、メモリー事業を除けば数%以下の利益率、または赤字で苦しんでいるの に対し、06年7-9月期決算で16%を超える営業利益率を上げた優良企業だった。

それだけに、「あのフリースケールがファンドに身売りするとは」(NECの 佐々木元会長、米ナショナル・セミコンダクターのブライアン・ハラ会長他)と いう驚きの声が、世界中の企業の首脳陣から聞かれた。共通するのは、モトロー ラを母体とする老舗の同社が、なぜファンドの買収対象になったのかという疑問 だ。その背景には、フリースケールの大きな事業構造の変化がある。

フリースケールは近年、工場への投資を最小限に抑え、資産を身軽にする経 営に移行した。その結果、「多額の設備投資を避け、自社の工場を減らす“ファ ブライト(Fab Light)”化で、収益が安定するようになった」(同業他社のルネ サステクノロジの伊藤達会長)というわけだ。

投資支出と償却負担が減って利益率が大幅に改善し、多額の現預金を蓄えた ところを、さらなる収益向上が可能とみたファンドが触手を伸ばした、と見る向 きは多い。伊藤会長も「潤沢な資金を持つファンドにとって、運用先としての魅 力が出てきたのではないか」と分析する。

実際、ファンド側でも「半導体産業は収益予測が困難で、投資対象としては やや毛嫌いされてきた」(ユニゾン・キャピタルの江原伸好代表)との認識が従 来は一般的だった。ところが、ここ数年は半導体需要が多様化したことで市況の 好不況の変動幅が以前より縮小。「ファンドの資金力を活用すれば、さらに成長 が期待できる環境になってきた」(同)と、再生案件だけでなく、成長企業に対 する大型案件の増加に積極的なファンドが増えている。

自前主義の罠

しかし、これを受け止める業界のなかでは温度差がある。「PEが参加する ことで企業価値が高まるなら、まったく否定するものではない。経営者はその変 化を恐れるべきではない」(エルピーダメモリの坂本幸雄社長)と肯定的な意見 もある一方、「個々の企業にはさまざまな事情があり、再編はそう簡単な話では ない」(東芝セミコンダクター社の室町正志社長)と距離を置いた見方もある。

日本の大手半導体メーカーは、製品の開発・設計、生産、販売を一気通貫に 自前で手がける垂直統合型のビジネスモデルが基本。その典型例が東芝だ。東芝 と言えば、一般的には、好調なフラッシュメモリー(電気的に一括消却・再書き 込み可能なメモリー)の話題が目立つ。しかし実際には、システムLSI(大規 模集積回路)はメモリーよりも事業規模が大きいことや、ディスクリート(個別 半導体)で世界一のメーカーである事実はあまり知られていない。

「東芝は総合半導体メーカーとして生きていく。つまり、決してファブライ ト化を志向しない」――室町氏は昨年10月の講演でこう語った。同氏の発言は、 現在の事業形態を堅持するという強い意思表示。ファブライト化を志向し、結果 的に投資ファンドへ身売りしたフリースケールへのアンチテーゼにも聞こえる。

だが、多品種少量の製品構成で自前の技術開発と生産投資を維持した結果、 多くの国内半導体メーカーが「技術は高くても低収益」(ドイツ証券の佐藤文昭 ディレクター)という苦境に陥った。1987年には日本勢だけで50%を超えた世界 シェアは、この20年間で22-23%へ半減。研究開発や設備投資の費用が年1000 億円単位に膨れ上がる一方、ヒット商品の不足で投資回収ができない日本メーカ ーは、収益もシェアも落とし続けるという“自前主義の罠”に陥っている。

過当競争を超えて

国内は、薄型テレビや携帯電話など最終製品の激しい価格下落で、過当競争 に苦しむ半導体メーカーがひしめく。かつて、世界で強い力を誇ったソニーなど 日本の最終製品メーカーが力を失ったいま、従来の顧客相手に国内市場中心で半 導体を売っているだけでは将来がない。再編で一定の成功を収めつつあるエルピ ーダの坂本社長は「総合半導体メーカーが乱立するこの状況は、そのままでいい のか」と、日本勢の地盤沈下に警鐘を鳴らす1人だ。

ジリ貧を抜け出すには「早急に分野別の再編・統合1-2社に集約し、国際 競争力を回復するしかない」(ドイツ証券の佐藤氏)と、荒療治が必要との意見 は多い。非中核事業なら利益が出ていても外へ切り出すシビアな経営判断や、既 存事業の強化につながるM&Aへの思い切った集中投資を経て、高収益企業に生 まれ変わった米TI(テキサス・インスツルメンツ)のような事例もあるからだ。

過当競争を超えて、いかに競争力を回復するか。なすべきことが見えていな いわけではない。当事者の間にも「事業を絞ることは必要」(NECエレクトロ ニクスの中島俊雄社長)、「構造改革は避けて通れない」(東芝の室町氏)、 「デファクトの強い製品がなければ永久に勝てない」(富士通の藤井滋常務)な どの危機意識は高まっている。

2007年は、各社が抜本的な経営戦略の見直しを迫られる。世界の地殻変動は “対岸の火事”ではない。ハイテク調査会社ジェイスターの豊崎禎久社長は、日 本勢もその影響を免れないとして「何も手を打たなければ存続さえ危うくなる」 と懸念する。5月施行の商法改正で、株式交換を通じた外国企業による日本企業 の買収(三角合併)が可能になれば、PEなどファンドを筆頭に世界のマネーが 日本にも押し寄せ再々編を迫る可能性もある。

再編がばら色の将来に直結するわけではないが、旧来型の自前主義から脱却 することで成功しうる道もある。問題は、こうした流れに背を向けるのではなく、 技術や生産に必要な資金をうまく外部から導入し、いかに再生につながるきっか けとするかだ。ただし、制度改正でもファンドでも「それを使う当事者に意思が なければ意味はない」(ゴールドマン・サックス証券の松橋郁夫アナリスト)の は事実。迫り来る時代の変調のなかで、企業の針路を明確にする経営陣の実行力 が問われている。

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