「いつか来た道」スタグフレーションの兆候で、インフレ連動債人気

原油価格の上昇と中東の緊張、米大統領 の手腕への不信が、1970年代のスタグフレーションを引き起こした。債券市 場では今、「いつか来た道」という言葉を思い浮かべる人が増えている。

この懸念を最も顕著に示しているのが、インフレ連動米国債(TIPS) だ。10年物のTIPSと通常の米国債の利回り格差は2.5ポイントと、7カ 月ぶり高水準に拡大している。格差は2002年には1.43ポイントだった。投資 家は今、債券投資の実質リターンはインフレ高進によって2.5ポイント押し下 げられるとみていることが分かる。

ノーベル経済学賞を受賞したポール・サミュエルソン氏は1970年代の米 国の低成長・高インフレ期に、「スタグフレーション」という言葉を浸透させ た。

TIPSと米国債の利回り格差を見る限り、米金融当局のインフレ抑制に 対する投資家の信頼は1998年10月がピークだった。当時は利回り格差が過去 最低の0.647ポイントにまで縮小していた。

投資家の見方に変化が生じたことは、年限10年以上のTIPSの年初来 リターンが1.85%と、同年限の米国債の1.1%(メリルリンチ調べ)を上回っ ていることが示している。

政治家や金融当局者は、財政および金融政策の変更に対する債券市場の反 応を恐れる。クリントン前米大統領の1992年の選挙戦を率いた1人、ジェー ムズ・カービル氏は「クリントン政権の最初の日々には、政策決定の大きな要 素は債券市場がどう反応するかという点だった」と話す。「誰と話しても、 『債券市場に不安を招くので、それはできない』と言われ、債券市場というの は力があるのだなと思った」という。

サミュエルソン氏は、現在の原油高と「住宅バブル」破裂が、1970年代 を思い出させると言う。当時のアーサー・バーンズ米連邦準備制度理事会(F RB)議長は1972年の大統領選挙の期間に低金利を維持し、景気を過熱させ た。石油輸出国機構(OPEC)の禁輸で、原油価格は4倍になった。

現在の原油価格は、2004年4月に比べほぼ2倍になっている。また、住 宅市場は1991年以来で最悪の不況にある。

フィデリティ・インベストメンツで債券運用に携わるウィリアム・アービ ング氏は「TIPSはインフレ高進リスクに対する割安な保険だと思える」と 話す。同氏はTIPSの組み入れを自身の通常範囲の0-5%の上限付近にし ており、さらに買い増しも考えているという。

TIPSと米国債の利回り格差は03年10月以来、2ポイントを上回って いる。これに先立つ2回の減税で成長は加速したが、04年度(03年10月-04 年9月)の財政赤字は過去最高の約4130億ドルに膨らんだ。

債券ブローカー、キャンター・フィッツジェラルドによると、10年債 (表面利率4 5/8%、2017年2月償還)利回りは先週10ベーシスポイント (bp、1bp=0.01%)上昇し4.75%で終了した。TIPS(表面利率2 3/8%、2017年1月償還)の利回りは6bp上昇の2.26%。

先週の相場下落の大半は、6日に起こった。同日発表された3月の米雇 用者数は前月比18万人増と予想を上回り、年内の利下げ観測は後退した。

2月の米個人消費支出(PCE)コア価格指数は前月比0.3%上昇。前年 同期比では2.4%上昇だった。1995年4月以来、前年同月比の上昇率が2.4% を超えたことはない。バーナンキFRB議長が望ましいとする範囲は1-2% だ。米成長率は06年10-12月(第4四半期)まで、3四半期連続で3%を下 回った。

リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの世界債券ストラテジスト、ジ ャック・マルビー氏は「2年前に比べ、成長は鈍化しインフレ率は高い」と述 べた。バーナンキ議長も、金融当局が直面するジレンマを認めている。議長は 3月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明で引き締めへの傾斜を示 さず、同月28日の議会証言では成長を脅かすリスクの高まりに対応して政策 の柔軟性を確保したと説明した。

マサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授のサミュエルソン氏はフロ リダ州でのインタビューで、「ウォール街は利下げを期待する人々で溢れてい る」が、「利下げをすればバーナンキ議長は信認を失うことになるだろう」と 話した。

原油価格は先週、イランによる英兵拘束を受けた緊張の高まりのなかで半 年ぶり高値に近づいた。1979年にはイランの武装勢力が在イラン米大使館を 占拠し444日にわたって人質とともに立てこもった。当時のカーター米大統領 の人気は急落し、80年の選挙でレーガン氏が圧勝した。ブッシュ大統領の支 持率は2月に、過去最低の32%まで落ち込んでいる。

USバンコープの資産運用部門、FAFアドバイザーズで運用に携わるワ ンチョン・クン氏は、米金融当局は今利上げをすることでリセッション(景気 後退)の引き金を引きたくはないとして、「金融当局は手が縛られている状態 のため、インフレは続く。従って、インフレ・リスクプレミアムは拡大する」 と指摘。「スタグフレーションはTIPSにとっては良い環境だ」と話す。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE