市場の【視点】日銀の追加利上げ、金利を「下げる」危険も(2)

金利の正常化を目指す日本銀行の追加利上げ は、実施時期が早すぎると、景気が減速するだけでなく物価上昇率が低迷し、か えって正常化が実現できなくなるリスクがある。

日銀は、将来の経済・物価情勢を展望して政策対応していく「フォワード・ ルッキング」(先見的)な手法で、デフレから脱却しつつある日本経済の実力に 見合った水準に向けて、政策金利を徐々に引き上げていく構えだ。

2月の追加利上げは、金融政策における重要指標の1つ、生鮮食品を除く (コア)消費者物価指数(CPI)の上昇率がゼロ近辺に鈍化し、先行き一時的 にマイナスに転じる可能性まで視野に入れたうえでの決定だった。全国のコアC PIは06年11月に前年同月比プラス0.2%、12月は同0.1%。利上げ後の今月 2日発表の1月分は昨年5月以来の同ゼロ%となった。

ただ、物価がゼロ近傍で当面は上昇幅の拡大も見込めない時期に利上げした ことに対し、市場では「事実上、ゼロインフレを目標にしているのと同じ」(大 和総研の原田泰チーフエコノミスト)との指摘も少なくない。原田氏は「インフ レ率がゼロ近傍のままでは、金利の正常化は難しい」とみている。

期待インフレ率の低下

中央銀行による政策金利の上げ下げは、企業の設備投資や家計消費、資産価 格などに影響を及ぼす結果、物価上昇率の変化を通じて「期待インフレ率」を動 かす。期待インフレ率とは、将来予想される物価上昇率。フォワード・ルッキン グな利上げによって物価上昇の芽が未然に摘まれるとの見方が広がれば、期待イ ンフレ率は上がりにくくなる。

最近、この期待インフレ率の低下が著しい。10年物国債利回りから同じ年 限の物価連動国債利回りを差し引いて求めた期待インフレ率は2日には0.386% と、04年4月につけた過去最低に迫る水準まで低下した。

期待インフレ率が低下したのは「日銀が消費者物価がゼロ近傍の下で利上げ したため」(クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト)。「日銀は 資産バブルを恐れるあまり、暗黙のうちにゼロ%をターゲットとするインフレ目 標値を想定しているのではないか」(白川氏)といった見方が浮上している。

2月の金融経済月報は、消費者物価の先行きについて「より長い目でみると、 マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けて いく」と予想しているが、市場の観測を打ち消すには至っていない。

金利正常化の障害に

消費者物価の上昇率が、一部の市場関係者が懸念するように長期間ゼロ近傍 に張り付いたままになった場合、金利の正常化は日銀が当初意図したようには進 まない恐れがある。

2月利上げ後の記者会見で福井俊彦総裁が言及したように「物価水準は低い が実質2%程度の成長が安定的に続く」と考えた場合、インフレ率がゼロ近傍の ままなら、名目成長率も2%程度となる。「名目成長率は長期金利とほぼ等しく なるため、長期金利は2%程度。これに見合う短期金利は1%前後。低成長下の 低金利という袋小路に陥ってしまう」(大和総研の原田氏)。

原田氏は「わずかなインフレは人々を幸せにする」として、日銀は早すぎる 利上げを自重し、インフレターゲット政策を導入すべきだと語る。

欧米の先例

ただ、利上げが遅すぎた場合の悪影響も大きい。

市場が将来、日銀は何らかの理由で金利の上昇を抑える力が弱いと判断した ら、期待インフレ率が上がって、長期金利が上昇。国債の利払い費が急増する恐 れがあるからだ。財務省によると、国債残高は3月末に、国内総生産(GDP) の1.5倍に当たる767兆円程度に達する見通しだ。

中銀がフォワード・ルッキングな手法で利上げすると市場金利が上昇しにく いことは、最近の米国やスイスの例が証明している。

米国の連邦準備制度理事会(FRB)は2004年6月から06年6月まで、約 2年間にわたって利上げを実施したが、米10年物国債利回りは利上げ開始後

3.9-4.7%程度で安定的に推移。利上げ局面も終盤に近づいた06年3月までは、 利上げ開始前の04年5月につけた4.9%を上回らなかった。

スイス中銀であるスイス国立銀行(SNB)も、06年12月まで1年をかけ て、政策金利を0.75%から断続的に2%まで引き上げた。利上げ前に2.6%程度 だった10年債利回りは、05年12月の利上げ開始に前後して低下。06年3、4 月にはいったん3.2%台まで上昇したが、利上げが続くなかで年後半は低下に転 じ、足元まで2.8%をはさんで安定的に推移している。

フラット化する世界

日興シティグループ証券債券本部の佐野一彦チーフストラテジストは、フォ ワード・ルッキングな利上げの下で長期金利が上がりにくいのは、期待インフレ 率が横ばいにとどまることが一因と解説する。

期待インフレ率が上がらなければ、政策金利の引き上げと短期債利回りの上 昇にもかかわらず、長期金利は安定。長短金利差が縮小し、利回り曲線(イール ドカーブ)はフラット(平たん)化する。

次の利上げは来年4-6月と読む佐野氏だが、フォワード・ルッキングな手 法に基づく年内利上げがあった場合でも、10年債利回りは「1.5-2%のレンジ から大きく外れることはない」と予想している。

早すぎず、遅すぎず

このように考えると、追加利上げのタイミングは実に難しい。

福井総裁は2月利上げ後の記者会見で、「金利の引き上げを急ぎすぎて、次 に比較的短い期間のうちに、あるいは予期せざる外的ショックもないのに金利引 下げの必要性が出てくるというような金融政策の運営は避けていきたい」との認 識を示した。

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