ヘッジファンドのアマランス:破たんの発端はトレーダーの引き留め

米ヘッジファンドのアマランス・アドバイザ ーズが閉鎖に追い込まれた発端は、創業者のニコラス・マオウニス氏が2005年 4月に行った決断にあった。

マオウニス氏が有望だと目をかけていた天然ガス取引トレーダー、ブライ アン・ハンター氏が、100万ドル(約1億1487万円)のボーナスでスティーブ ン・コーエン氏率いるSACキャピタル・アドバイザーズから引き抜かれよう としていたのだ。アマランスを60億ドル規模のヘッジファンドに育て上げたマ オウニス氏はハンター氏を手放したくはなかった。

当時、転換社債も株式相場も下落しており、原油と天然ガス相場は上昇し ていた。これでハンター氏の経験はますます貴重なものとなっていた。そこで 同氏をエネルギー取引の共同責任者とし、取引の管理を任せることをマオウニ ス氏は決断した。

その1年5カ月後、ハンター氏は、66億ドルもの損失を出してヘッジファ ンド業界始まって以来最大の破たんをもたらした1人となった。今でも弱冠32 歳の1人の花形トレーダーに、マオウニス氏が尋常ならぬ信用を寄せていたこ とを投資家は不思議に思っている。あまりの裁量を与えられ、アマランスの資 産の半分以上をも運用することになったハンター氏は、2年連続うまくいって いた相場感に判断力を奪われていたのかもしれないとの指摘がある。

ヘッジファンドや資産運用会社を対象とするヘッドハンター、ヒグドン・ パートナーズを経営するハンク・ヒグドン氏は、「アマランスの破たんは複雑な 数量的な理由によるものではなく、人間の弱さやもろさを露呈している」と述 べた。

ハンター氏は4日の取材依頼に対してコメントを差し控えるとしており、 マオウニス氏(43)も広報担当者を通じて、コメントを控えた。

巨額の損失

アマランス末期の損失は巨額だ。9月の1週間で、ハンター氏が手掛けた 天然ガス取引は約46億ドルの損失を出した。それが月末までには66億ドルへ 膨れ上がり、アマランスの資産の7割を占めた。

エネルギー取引への傾斜が尋常でないことを少なくとも1人の投資家は察 知し、アマランスが破たんする前に、同社への投資を引き揚げている。そして、 一部の元従業員もその取引には疑問を感じていたと告白している。そして、相 場が突然反転した時、アマランスにはポジションを解消する手立てがもはやな かった。遅過ぎたのだ。

マオウニス氏がハンター氏により多くの役割を与えようとしていた2005年 4月の市場環境は良くなかった。一時はアマランスの投資対象で主流だった転 換社債の相場は大きく崩れていた。社債と公社債のスプレッド(利回り格差) は縮小し、株式相場のボラティリティ(変動率)は過去最低に低下。また、そ の年の5月には米自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・ モーターが投資不適格級に格下げされ、信用関連の取引もうまくいかず、株式 取引も利益を上げていなかった。

そこでマオウニス氏は、天然ガスとエネルギー取引がうまくいっていたハ ンター氏に救いの手を差し伸べてくれるよう求めた。元同僚によれば、マオウ ニス氏はハンター氏にこう言ったという。「何とかしてほしい。われわれは君を 必要としている」。

ハンター氏はこれに従った。そして05年9月には大成功を収めた。その年 早くから始めた天然ガス取引がハリケーン「カトリーナ」や「リタ」の襲来で 予想通りに価格が上昇し、10億ドルの利益を上げたのだ。

これをきっかけに、それまで目立たなかったハンター氏に同僚らが注目す るようになった。身長2メートルでカナダ人の同氏は、ジャージ姿で取引して いることもあったという。

マオウニス氏の経営スタイル

転換社債トレーダー出身のマオウニス氏は、アマランスを2000年9月に創 設した。当時の資産は6億ドルで、128億ドル規模のシタデル・インベストメン ト・グループのように多角的な投資戦略のヘッジファンドを目指したという。 ヘッジファンド・リサーチによれば、アマランスの資産は05年末までには75 億ドルに拡大し、世界39位の規模のヘッジファンドへ成長した。

マオウニス氏はできる限り優秀なトレーダーを採用する運営スタイルを取 っていたが、元従業員によれば、細かい管理は行わず、優秀なトレーダーには なるべく自由裁量の余地を与えた。

こうした運営の下、アマランスは創業以来で年率15%の利益を上げるよう になった。ヘッジファンド・リサーチによれば、これは多角的に投資するヘッ ジファンドの平均運用成績の倍以上だった。

アマランスの資料によれば、ハンター氏はカナダのカルガリー近郊で育ち、 アルバータ大学で数学の修士号を取得後、1998年にトランスカナダで天然ガス 取引を開始。2001年5月にはドイツ銀行(ニューヨーク)に取引の場を移した。 同氏はドイツ銀での最初の2年で6900万ドルを稼いだとし、ボーナス支給不足 だとして、同行を相手取った訴訟を起こしている。同氏は04年4月にドイツ銀 を去り、その後間もなくアマランスに就職した。

05年末までには、ハンター氏はアマランスで最も稼ぐトレーダーとなった。 マオウニス氏との契約で、ハンター氏は自分が上げた利益の15%を手にできる ようになった。多くのトレーダーにとっては10%が平均だ。元従業員によれば、 カトリーナ効果のあった同年、ハンター氏は約7500万ドルを稼いだ。その年末、 マオウニス氏はハンター氏が妻子を連れてカルガリーに戻ることを承諾し、同 氏が8人のトレーダーと取引できる事務所を開設した。

しかし、この時点で少なくとも1人の投資家はアマランス訪問で、同社の エネルギー取引の大きさを懸念した。ニューメキシコ州サンタフェのファン ド・オブ・ファンズ、ウォルフ・アセット・マネジメント・インターナショナ ルのエドワード・バッサー氏は、「われわれにとって、アマランスの多角戦略フ ァンドは純粋なエネルギーファンドに見えた。ほぼすべての利益がエネルギー 関連のポートフォリオによるものだった」と振り返る。同氏はアマランスに投 資しないことを決めた。

変わらぬ相場感

ハンター氏の相場感はアマランス入社時から基本的に変わらなかった。つ まり、冬季と夏季の天然ガス価格差は拡大するとの読みだ。また、燃料やヒー ティングオイル(暖房油)の価格があまり変わらないか下落するなか、天然ガ ス価格は上昇するとの見方も取っていた。

投資家によれば、アマランスの運用成績は今年4月にはプラス13%となり、 そのほぼすべてエネルギー取引によるものだった。1-4月期では、ほかの多 角戦略ファンドの成績が平均プラス5.3%だったのに対し、アマランスは30% に近かったという。しかし、5月に天然ガス価格差は縮小し、ハンター氏の運 命は逆転する。同氏は10億ドルの損失を出した。

マオウニス氏が9月22日に投資家との電話会合で明らかにしたところでは、 今年6月から8月にかけてのエネルギーと商品取引は13億5000万ドルの利益 を上げた。ブルームバーグ・ニュースが入手した同会合の資料によれば、その 多くは8月に上げた利益だった。しかし、9月14日、天然ガス価格は10%も下 落し、アマランスは5億6000万ドルの損失を計上する。その後、損失は拡大し、 投資家は資金返還を要求、マオウニス氏は同社清算を決めた。

現在、ハンター氏はカルガリーで新居を建築中だ。同氏をよく知る人々は、 ハンター氏が再び、トレーディングの場に戻ることを口にしているという。

かつてドイツ銀で一緒に勤務したブルーノ・スタンジアル氏は、ハンター 氏について、「再び取引にかかわる方法を探し出すだろう。彼のような人物を傍 観者にさせていたら、あまりにもったいない」と語る。

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