【銘柄探訪】スズキ:地味からグローバルへ、小型車強化で高値再挑戦

年初来上昇率は49%(12月1日現在)。 自動車大手3社のトヨタ自動車、日産自動車、ホンダを株価パフォーマンスで 大きく引き離しているのが軽自動車最大手のスズキだ。11月10日に上場来高値 の3630円を付けて以降、伸び悩んでいるものの、利益率の高い海外向け小型車 を強化している姿勢に、市場関係者の評価は高い。軽自動車頼りの戦略を脱し て“変身”したスズキにさらなる上値余地はあるのか、ポイントを探った。

年初来騰落率を比較すると、スズキの5割近い上昇に対し、トヨタは14% 高、日産自動車は18%高、ホンダは20%高にとどまる。軽自動車でライバルの ダイハツ工業に至っては7%安で、有力自動車株の中でのスズキの好パフォー マンスぶりが際立つ。大和総研の林真吾アナリストはスズキ株について、「グ ローバルにバランスの取れた成長を目指す長期的な成長シナリオが自動車セク ターの中で最も明確」と評価している。

日興シティグループ証券の松島憲之アナリストは、投資判断を「買い」、 目標株価を4350円とする。先行投資負担が重く、2006年3月期と07年3月期 の収益は踊り場になるとの見方が支配的だったが、投資負担を吸収しながら増 益基調を維持している点を高く評価。「インドの新工場が本格寄与する08年3 月期には先行投資の回収が始まり、一段と高い利益成長が期待できる」(松島 氏)として、09年3月期までは過去最高益が続くと分析する。

快走中のアクセル緩める

日本国内の新車市場全体を見渡すと、登録車の新車販売台数が11月まで17 カ月連続で前年割れとなるなど、不振続きであるのを横目に、軽自動車販売は 11カ月連続のプラスと好調を維持している。このペースでいけば、軽の新車販 売は2006年に3年連続で過去最高を更新し、200万台の大台を突破する公算が 大きい。

軽自動車は、自動車税など諸費用が割安な上、ガソリン高を背景に燃費効 率の良さも選好されている。1998年の衝突安全性の向上を目的とした規格改定 により広い空間を取れるようになったことをきっかけに各メーカーが開発努力 をし、軽の機能が向上したことも購買層の拡大に結び付いた。しかしこうした 好環境の中、首位のスズキは軽生産のアクセルを緩め、2位ダイハツ工業の追 い上げを受けている。

スズキは8月9日、600億円を投じて、静岡県牧之原市にある4輪車用エン ジンを生産する相良工場の敷地内に新工場を建設すると発表。年産24万台規模 で、08年秋から小型車の生産を開始する。稼働までに2年かかることから、国 内で生産する車種の調整にも踏み切った。まず今年度は、輸出用小型車の生産 を前年に比べて6万台増やす一方で、軽自動車の生産を3万台減らす。来年度 は小型車の生産をさらに3万台増やすとともに、軽を3万台減らす計画だ。

軽自動車市場の伸びが続く中で、異例とも言える減産表明。しかし国内に 市場が限られる軽よりも、世界的に需要が見込める小型車事業を強化する戦略 を評価する声は多いようだ。UBS証券の吉田達生アナリストは、「海外の小 型車受注残への対応と軽自動車販売過当競争の沈静化という2つの狙いから、 英断に踏み切った。今後5年間の成長戦略が明確にされ、ポスト鈴木会長の同 社の行く末に対する不安が和らいだ」と述べる。

34年ぶり首位陥落の公算、名より実取る

8月の生産計画変更に伴い、11月1日の9月中間決算発表時には今期販売 計画も修正。主力の軽を従来の63万台から60万5000台に引き下げる一方で、 海外販売を149万6000台から153万1000台に引き上げ、合計では221万1000 台から222万1000台に上方修正した。一方、スズキを追いかけるダイハツは軽 の販売計画を中間決算発表時に5000台上方修正し、61万5000台としたことか ら、両社の修正値が実現すれば、スズキは33年間守り続けた軽販売首位の座を ダイハツに明け渡すことになる。

鈴木修会長は、「軽でのシェアトップを選ぶか、売上高や利益を選ぶかと なれば、後者をとるのが経営者」と話し、シェアにこだわらず、収益性が高い 小型車の生産・販売を優先させる考えを示す。

JPモルガン証券の中西孝樹アナリストは、「今年度の国内軽トップシェ アの座はダイハツに輝く公算が非常に大きいが、あえて無益なシェア争奪戦を 繰り広げない姿勢が確認された。名より実を取る賢明な選択」と評価した。ま た、2008年に国内新小型車工場の稼働を控え、「長期的にはダイハツに奪われ たシェアを挽回する供給余力も生まれてくる」(同氏)とみる。

今期収益は過去最高に、なお保守的の声

スズキの9月中間期連結決算は海外を中心に小型車の販売が好調で、純利 益が前年同期比28%増の395億円と4年連続で過去最高益を更新した。これを 受け、07年3月期通期の連結売上高予想も前期比9.2%増の3兆円(従来予想 は2兆8000億円)、営業利益は同8.9%増の1240億円(同1150億円)、純利 益は同9.2%増の720億円(同660億円)にそれぞれ上方修正。売上高、利益と もに期初時点で過去最高更新を見込んだが、一段と水準が高くなる。

ただ、アナリストの間では会社側の予想は依然保守的との見方が多い。日 興シティ証の松島アナリストは、「決算説明会では、会社側がいつものように 保守的な収益予想を発表していることがニュアンスで伝わってきた」と述べた。

インドとハンガリーで販売シェア首位

世界的に見ると、新車販売マーケットは日米や西欧ではすでに飽和状態に あり、「今後の市場成長はアジアや東欧諸国など新興国がけん引することにな る」(ドイツ証券の持丸強志アナリスト)。スズキは06年9月中間期時点での 海外売上高比率が68%(02年3月期には53%)となっており、海外依存度はこ こ数年で急速に高まっている。軽自動車で長年培ってきた低コスト技術を武器 に、早くから新興国を開拓していることが強みで、インドとハンガリーでは現 在トップシェアを握る。

持丸氏は、人口が多く、世界的な成長市場であるインドの乗用車販売でス ズキが4割以上のシェアを握っていることは大きなアドバンテージで、インド など海外を軸に中長期的な業績成長期待は強いとみている。半面、進出先の新 興国の中には政情不安など懸念材料を抱える地域も多く、「カントリーリスク にさらされる可能性が高まっている」とも指摘する。

GM放出株、需給懸念なし

「1年では無理かなという思いはしている」――。11月7日、スズキは1 月の「MRワゴン」以来となる軽乗用車「セルボ」を発売。都内で開いた新車 発表会の席上、鈴木会長はこう話し、米ゼネラル・モーターズ(GM)が3月に 売却したスズキ株について、1年以内に買い戻す可能性は低いとの見通しを示 した。GMは今年3月、経営建て直しの資金を調達するために、保有していた スズキの発行済み株式20%のうち約17%を放出し、スズキが自社株として取得。 スズキは、1年間はGMが買い戻せるように保有するとしていた。

金庫株としてスズキが保有している自社株が、M&A(企業の合併・買収) や資金調達の目的で市場に放出され、株式需給の悪化を招くことを警戒する向 きは一部にある。しかし富士投信投資顧問の岡本佳久執行役員は、「スズキは 系列の部品メーカーを持たずに幅広く部品を調達しているため、系列強化のた めに株式交換などをする可能性は低く、金庫株が市場に放たれ需給バランスを 崩すリスクは小さい」との見方を示している。

短期的には株価踊り場、海外勢の動き注目

大和総研の林アナリストは、スズキ株について強気の投資判断を下してい るが、短期的には株価が踊り場の局面を迎えていると指摘する。先月に上場来 高値を付けるまでの上昇が急ピッチだったことに加え、今期予想ベースの調整 EV/EBITDAが過去4年で最も高い水準にあるためだ。高値警戒感が台 頭する素地が整っているとして「現在のスズキ株は短期投資の対象にはならな い」(林氏)と考えている。

一方、UBS証の吉田アナリストは、「低コスト・低価格の自動車を作っ ているという地味なイメージから、スズキはグローバルな投資家の間ではこれ まであまり知られていない銘柄だった」と指摘。しかし、スイフトやSX4な ど洗練された小型車を海外市場中心に積極的に投入し始めており、「今後幅広 い投資家層からの認知度が高まれば、株価は再び上値を試す展開となることが 想定される」(吉田氏)と予想した。