福井日銀総裁:前もって緩やかに手を打っていく-金利水準調整(7)

日本銀行の福井俊彦総裁は7日昼、都内で 講演し、「実際に物価や経済に問題が起こってから対応すると、どうしても調整 は急激なものとなり、結果的に景気は波を打つ。そうした急激な調整を避けるた め、われわれはフォワード・ルッキング(先見的)に行動していく」と言明。そ の上で「先々まで考えながら、そうした急激な調整が必要な事態を招かないよう に、前もって緩やかに手を打っていく」と語った。

「前もって緩やかに手を打っていく」という部分は、講演終了後に日銀のホ ームページに公開された講演要旨にはない福井総裁のアドリブ発言。福井総裁は このように述べた上で、こうした政策スタンスは「あくまで景気を長続きさせる ためのものであって、決して成長の芽を摘み取るものではない」と付け加えた。

興銀第一ライフ・アセットマネジメントの小出晃三チーフエコノミストは福 井総裁の講演を受けて「『フォワード・ルッキングに行動する』というのは、日 本語で言えば『もう少し前に倒れてやる』ということだ。利上げは『ゆっくりや る』と言いながら、一方で『前に倒れる』というのはやや矛盾するメッセージに 聞こえるが、どちらかと言うと今回は『前に前に倒れて行動を起こしますよ』と いうところに力点を置いて話されたのかなという印象を持っている」と語った。

中立金利まで5年かけない

福井総裁はまた、講演後に会場からの質問に対し、「財政政策と金融政策の 時間軸は違ってくる。財政の健全化はそんなに短期的にできない。5年をかなり 超える長い期間を経て、着実に正常化を進めなければならない。一方、金融政策 は今後5年以上かけて正常化を図っていくというものではないだろう」と指摘。

その上で「今後、潜在成長率がどれくらい上がるか正しく見極めながら、や はり経済・物価情勢に見合った均衡の取れた金利水準に、そんなに極端に長い時 間をかけないで近づいていく必要がある。なぜならば、最終的に経済・物価の実 態に見合った金利水準こそ、日本の持てる資源の最も有効な配分という、金利が 持つ本来の機能を最も正しく発揮する状況になるからだ」と語った。

小出氏は「『フォワード・ルッキング』と『ゆっくり』、しかし『5年もか けない』ということを整合的に理解すると、景気の拡大が来年にかけて続くとい う見方に立つのであれば、『前もって次の一手については踏み出したい』という ニュアンスで話す一方、まだデフレから病み上がりの過程にあるということで 『一気呵成(かせい)に利上げはせず、ゆっくりやる』というメッセージを送ら れた」と指摘。

その上で「5年ということに触れたのは、日銀は恐らく中立金利として2% 前後とみていると思うが、『前に一歩踏み出したい。でも、そこからのプロセス はゆっくりやらせてもらう。しかし、そこは誤解のないように、中立金利までの 調整を5年もかけると言っているわけではない』。そういう解釈になるのではな いか」と語った。

「ゆっくりと進める」

福井総裁は講演で、先行きの金融政策の運営方針について「極めて低い金利 水準による緩和的な金融環境を当面維持しながら、経済・物価情勢の変化に応じ て、徐々に金利水準の調整を行うことが適当であると考えられる」と指摘。その 上で「日銀では、予め決められたスケジュールでの金利引き上げは想定していな い。金利水準の調整は、経済・物価情勢を丹念に点検しながら、ゆっくりと進め ていくことになる」という見解を繰り返した。

福井総裁はまた、講演で「日本経済は物価安定の下での持続的な成長を実現 していく可能性が高いと判断される。こうした見通しは市場や企業が先行きの政 策変更を織り込んだうえで意思決定していることを前提としたものなので、経 済・物価が今後とも見通しに沿った動きをしていくためには、政策金利水準の調 整を行っていくことが必要となってくる」と述べた。

「きめ細かく手を打っていく」

福井総裁はさらに、講演後の会場からの質問を受けて、「次の政策変更のタ イミングは、前もって予断は持っていない。大事なことは、何かリスクが見える までわれわれは何もしないというシナリオではない。インフレになるまで待って 金利を抑えるというやり方をすると、その後、景気に波が起きてしまう。そうい うことが起こるような状況には持っていかない。それより前にきめ細かく手を打 つことによって、物価の安定を保ち、景気の波を小さくしていく」と語った。

福井総裁は続けて「06年度、07年度の日銀の基本的な経済・物価の見通し は、ある程度政策金利が上がることを前提に、企業、金融機関その他の経済主体 も行動されるという前提に見通しを立てている。したがって、今後経済・物価の 現実の推移が、日銀が示している展望リポートの標準シナリオに沿って動くとい うことであれば、日銀は金利引き上げを行うことによって、実際の経済と金利水 準の整合性が取れていく」と述べた。

福井総裁はその上で「むしろ、普通に経済が推移すれば、われわれはゆっく りだけれども、金利を上げることによって、そのシナリオをさらにその先まで維 持できる」と語った。

景気拡大は「単なる外需の恩恵ではない」

福井総裁は海外経済については「米国の景気拡大は鈍化しているが、他の国 の経済成長が補う形で、世界経済全体としてみれば、力強い拡大を続けています。 先行きも、地域的な拡がりを伴いながら、しっかりとした拡大を続けていくとみ られる」と述べた。

その上で、わが国の景気について「生産・所得・支出の好循環が働くもとで、 緩やかに拡大している。外需の動向が強い追い風となってきていることは間違い ないと思うが、日本経済の現状について単なる『外需の恩恵』によりもたらされ たものと評価することは適当でないように思う」と語った。

福井総裁は物価についても「2000年基準で示した前回の見通しと比べ、基 調的な判断に変わりはない。引き続き、先行きにかけて前年比のプラス幅が次第 に拡大していくという姿を基本シナリオに据えてよいと思う」と述べた。

「地価にも十分注意払う必要」

リスク要因については「現時点においては、原油価格の下落もあって、米国 景気が緩やかに減速するもとでインフレ圧力も徐々に緩和していくというシナリ オが実現するがい然性は高まってきているとみられるが、米国における景気の下 振れあるいはインフレの加速といったリスクは、顕現化した場合の影響度が小さ くないだけに、引き続き注視していく必要がある」と語った。

福井総裁は一方で、「景気の緩やかな拡大が続く中で、金融環境は極めて緩 和的な状態が続いてきている。短期金利は経済や物価との関係からみて極めて低 い水準で推移している」と指摘。為替相場についても「円安基調で推移しており、 実質実効為替レートは、1985年のプラザ合意直後以来の円安水準となってい る」と述べた。

福井総裁はその上で「そのように極めて緩和的な金融環境のもとで、企業が、 期待成長率や資金調達コスト・為替相場見通しなど、採算に関する楽観的な想定 に基づいて投資を一段と積極化する場合には、成長率が一時的に大きく上振れる 反面、その後は資本ストックの過剰な積み上がりの反動が生じ、調整を余儀なく される可能性がある」と指摘した。

さらに、地価の動向についても「全体として、地価の行き過ぎた上昇を懸念 する状況にあるとはみてないが、こうした資産価格の動きも民間需要を押し上げ る方向に作用する可能性があるので、今後の動きには十分注意を払っていかなけ ればならない」と語った。

共同取材:柿崎元子--Editor:Ozawa

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