シベリアの世界最大級炭田開発が暗雲-日本勢にロシアリスク(2)

住友商事や双日などが、新日本製鉄など国 内高炉大手向け原料炭の新規開発を計画していたロシア・東シベリアにおける 巨大炭田の開発が暗礁に乗り上げている。ロシアの中央政府と地方政府との対 立が原因との見方が強く、開発が開始できない状態となり、本格的な炭田開発 のメドが立たない事態となっている。

ロシアでは最近、英蘭シェルと三井物産、三菱商事の3社による石油・ガス 生産プロジェクト「サハリン2」に対して政府が事業承認の取り消しを要求し たケースもあり、同国での資源開発のリスクの大きさが改めて浮き彫りとなっ た格好だ。

開発対象となるのはエリガ炭田。これは、サハ共和国の首都ヤクーツクの 南約800キロに位置する。年産2000万トンと世界最大級の生産規模が見込ま れ、需給ひっ迫の続く原料炭の新規供給源として期待されており、当初は2007 年の生産開始が予定されていた。

05年11月に来日したプーチン大統領が、今後の日ロ間の経済協力の可能性 を話すなかで、同炭田について再三言及し、日本側に共同開発を事実上打診。 今年2月には経済産業省と新日鉄、住商、JFEスチール、双日などが官民合 同視察団を編成し、モスクワを訪問、原料炭輸送の鉄道建設などについて話し 合った。

しかし、開発に先立ち、「10月15日に予定されていた権益売却の入札が、 サハ共和国とロシア中央政府との対立が理由で延期された」(住友商事・資源 第2本部長の降旗亨理事)という。双日も「入札延期の通知が来た」(込山雅 弘執行役員)。在日ロシア連邦通商代表部のアレクセイ・マリニン氏によると、 「諸事情あり入札を延期した」とコメントしたが、背景については説明してい ない。

当初、エリガ炭田の権益を現在保有するサハ共和国などはこの炭田の権益 40%と、すでに生産されている極東最大のネリュングリ炭鉱の運営会社ヤクー トウーゴリの権益約75%を合わせて売却する予定だった。ロシア鉄道保有のエ リガ炭田権益30%や、一部石炭輸送用鉄道路線も売却対象となる予定だった。 しかし、「ロシア政府が、そもそもサハ政府が保有するヤクートウーゴリの権 益を認めないとの見解を出したため、前提が崩れた」(降旗理事)とし、権益 獲得を狙っていた住商や双日なども「当面は事態を見守るしかない」(同氏) 状態という。

ロシア中央政府は、旧ソ連邦崩壊後の混乱期にヤクートウーゴリの権益を 不当に取得したと主張してきた。ロシアのインタファクス通信によると、ロシ アの連邦資産管理庁が、サハ共和国を提訴したため、サハ共和国は権益売却計 画を取りやめたと報じている。報道によると、ロシア高等仲裁裁判所は10月 16日、サハ共和国に対して同国が保有すると主張するヤクートウーゴリ権益は 無効との判断を下した。

ロシア中央政府とサハ共和国は昨年、サハが保有するヤ クート権益につ いては疑念を挟まないということで一時合意していたという。ロシア中央政府 が、資源の国家管理を強めるなかで、議論を蒸し返した可能性がある。

エリガ炭田は、地理的にも極東シベリア地域にあり、日本や韓国、中国向 け原料炭の供給源としての期待が大きい。2004年7月には、新日本製鉄とJF Eスチール、住友金属工業、神戸製鋼所、日新製鋼の5社は、エリガ炭田開発 プロジェクトの事業主体に対して、09年から10年間の長期の買い取り保証を 提示した。数量は合計で年間400万トン弱。05年には住商と新日鉄、国際協力 銀行が共同で、同炭田の鉄道建設工事の事前調査を実施した経緯がある。

鉄鋼メーカーは、エリガ炭田開発の遅延について「ロシアの国情から遅延 はそれほど驚きでない。豪州を中心に原料炭は当面確保できている」(JFE ホールディングスの林田英治専務)と表向き静観の構えだ。エリガ炭の生産が 遅れれば、豪州に偏在している高品質原料炭の高値が続き、鉄鋼メーカーのコ スト圧迫をし続けることになりそうだ。

ヤクートウーゴリが運営するネリュングリ炭鉱は1970年代に開発され、 現在では年産330万トンの原料炭を生産。住商と双日が製鉄メーカー向けに取 引している。

ロシアでの資源開発ビジネスについて、野村証券金融経済研究所の成田康 浩アナリストは「外資への今後の対応が明確でないロシアへの投資はリスクを 伴うが、広大な国土に広がる資源はやはり魅力的。このようなリスクのあると ころにしかおいしいビジネスが残されていないのも現実なため、今後商社各社 は個別にリスクを厳しく査定しつつ、ロシア事業への対応を決めていくのだろ う」と指摘している。

住友商事の株価終値は前日比11円(0.7%)安の1527円、双日の株価は同 11円(2.9%)安の377円、JFEHDの株価は同20円(0.4%)安の4680円、 新日鉄は同2円(0.4%)高の478円、住金は同2円(0.5%)高の438円、神 戸製鋼は同2円(0.6%)安の356円、日新製鋼は同3円(0.8%)安の359円。