ゴルフ企業の上場相次ぐ、市場回復で拡大に弾み-団塊退職備え(2)

世界2位の「ゴルフ大国」である日本で、 大手ゴルフ関連企業の株式新規公開(IPO)が相次いでいる。2005年12月、 ゴルフ場運営の国内トップのパシフィックゴルフグループインターナショナルホ ールディングス(PGGIH)が設立後わずか1年で上場、今年10月13日には ゴルフクラブで国内トップのSRIスポーツ、11月1日にはゴルフ場運営2位 のアコーディア・ゴルフがそれぞれ東証1部に上場した。背景には資本市場を活 用することで、変化し始めた日本のゴルフ市場に対する積極的な事業拡大路線に 弾みを付けたい意向がある。

SRIスポーツの馬場宏之社長は、株式上場について「ゴルフクラブは今後、 グローバルでの闘いになる。海外売り上げ比率を06年3月期の11%から2010 年には20%まで高めたい。積極的に海外展開する上で、資金調達が必要になる ことが大きな目的の1つ」と力説する。

また、きょう上場したアコーディア・ゴルフの竹生道巨社長は「これまで日 本のゴルフはゴルフ場側の論理で進められてきたが、それをプレー主体に変えて いくという『ゴルフ事業革命』を行っている。年間10コース以上の買収と2ケ タ成長を続けていくための資金調達と、それに備えた人材確保が上場の目的」と 狙いを話す。

こうした大手ゴルフ関連企業の拡大志向を刺激し、実際にゴルフ市場全体の 追い風となっているのが、07年から本格化する団塊世代の大量退職だ。最年長 層が60歳定年を次々と迎えようとする中、ゴルフ会員権相場は今年初から4割 上昇し、ゴルフ人口も増加傾向だ。大手企業の相次ぐ上場は、関連市場がバブル 崩壊という長い眠りからようやく目覚め、新たな局面に入ってきたことを告げる チャイムのようでもある。

ちばぎんアセットマネジメントの大越秀行運用部長は、「団塊世代は接待が 華やかなりし頃にゴルフを行っていた世代。退職後の新しい消費の向かい先とし て、ゴルフ市場は旅行などと同様に、今後期待される分野」と見ている。

企業年齢若いメジャーが顔そろえる

05年半ばまで、国内のゴルフビジネスの上場企業と言えば、大手専業企業 が少なく、売り上げ規模の小さい企業が中心だった。クラブメーカーでは、ブリ ヂストンの子会社で業界2位のブリヂストンスポーツは未上場で、最も大きい上 場企業は国内シェア5位のミズノ。ゴルフ場運営では大手の上場はゼロ、ゴルフ 場のインターネット予約を行う企業や、シャフトメーカーといった売上高100億 円以下の新興企業に偏っていた状況がある。

しかし05年12月、ゴルフ場運営の国内トップで、売上高600億円超である 米ローン・スター系のPGGIHが新規上場。今年10月上場のSRIはゴルフ クラブで国内シェア20%と首位、売上高で550億円を誇り、11月上場のアコー ディアは米ゴールドマン・サックス系のゴルフ場運営2位と、ここへきて一気に 国内メジャー企業が顔をそろえた。

メジャー3社に共通する特徴として、アコーディアのゴールドマン・サック スによる買収が02年、SRIスポーツの住友ゴム工業から分社独立が03年、P GGIHの設立が04年と企業年齢がいずれも若く、上場までの道のりが短期間 だったことも挙げられる。

米国流

SRIスポーツは、2000年に発売した「XXIO(ゼクシオ)」の大ヒッ トを機に国内トップブランドに躍り出ると、現在では「SRIXON」ブランド 名で米ツアーランカーのジム・フューリクと契約するなど、成長機会を国内外に 求めている。

PGGIHやアコーディア・ゴルフは、バブル崩壊でゴルフ場の破たんが相 次いだ時期に安価でゴルフ場を次々取得。ともに運営ゴルフ場は100を超え、業 界再編で一気に国内を代表する大手に躍進した。従来は、ゴルフ場運営を土地有 効活用による不動産ビジネスとして捉える主体が中心だったが、両社はゴルフ場 の魅力向上に努力するなど、「米国流」の運営手法を展開し、消費者からの支持 を集めている側面もある。

PGGIHでは、買収などを通じて10年に運営ゴルフ場を200(今年10月 月初段階で106)にする目標を立てている。拡大路線を歩む企業として資本市場 で資金調達を行うことや、買収先のゴルフ場に対する信用力をつけるために上場 した。

PGGIH傘下でゴルフ場の運営受託を行うパシフィックゴルフマネージメ ント(PGM)のデイヴィッド・サイダル社長は、「経営不振のゴルフ場は資金 不足などから必要な修繕を怠っており、買収したゴルフ場はまずメンテナンスを 適正レベルまで高める。安価なプレー料金にするために、カート道路も敷設し、 ゴルフを楽しみたい人にプレーできる状況を作り出している」と話す。

練習場利用者が17年ぶり増加、企業から個人へ

社会経済生産性本部がまとめた「レジャー白書2005」によると、ゴルフ場 の2005年売上高は前年比5%減の1兆1330億円と、減少傾向が続いている。一 方、ゴルフ用品売上は同0.7%増の4400億円と2年ぶりに増加。ゴルフ練習場 の売り上げは同0.6%増の1560億円と、横ばいの年も含めると17年ぶりに増加 に転じた。

ゴルフ場利用者を年齢性別に分ければ、増えているのは男性では40代と60 代以上、女性では20代、40代、50代。またPGMでは、平日のプレー利用客が 増加傾向にあり、女子プロゴルファーの宮里愛選手や横峯さくら選手などが活躍 する影響から女性の利用も伸長。会員権の購入では男性の40-45歳が多いとい う。「ゴルフを1つのスポーツとしてライフスタイルに取り込もうという利用者 が増えた」(トンプソン智子PRマネージャー)。

SRIスポーツの馬場社長は、「バブル期までのゴルフは男性による接待ゴ ルフが中心だったが、今後は仲間や健康、コミュニケーションなどに象徴される ゴルフへと質が変わるだろう」と予測する。国税庁によると、企業(調査対象5 万6440社)の2004年の支出交際費は8年連続減少となる3兆4393億円。ピー クだった1994年の6兆2078億円に比べて45%減少した。

JPモルガン証券の斎藤剛アナリストは「ゴルフ市場にとって、特にゴルフ 練習場利用者数の増加傾向はポジティブ」という。過去のゴルフ場利用者数と練 習場利用者数の推移を移動平均で見ると、連動性が高く、練習場利用者が増加し た後にはゴルフ場利用者が増える傾向にあるそうだ

ゴルフ練習場「メトログリーン東陽町」(東京都江東区)を経営するメトロ スポーツの鶴岡幸一副支配人は、「練習場利用者数は01-02年を底として増加 傾向にある。最近では平日に20-30代の若いグループの姿が目立つようになっ た」と話している。

JPモルガン証の斎藤氏は、ゴルフ市場回復で注目できる企業の順序として、 まずPGGIHなどのようにスケールメリットによるコストダウンを享受できる 大手運営会社、その後にクラブメーカーなど用具に恩恵が広がると見る。

会員権相場は4割上昇

バブル崩壊後に下落した主な資産価格の中で、最も下げの大きかったゴルフ 会員権相場の変化ぶりも顕著だ。ゴルフ会員権の取扱高トップである住地ゴルフ の調べでは、主要ゴルフ場が集中する関東での「住地ゴルフ平均」は今年に入っ て上昇基調を強め、5月の高値の316万円まで43%上昇。株式市場が一時的に 下落した6月以降も高水準を維持する。

ゴルフ会員権はプレーの予約が取りやすく、プレー料金も安くなるメリット がある。ゴルフブームだったバブル期は平日でも会社の接待利用が多く、土日は 会員権を所有していなければ、プレーできなかった。「住地ゴルフ平均」は90 年に史上最高値3458万円を付けた後、景気後退やゴルフ場経営への信用不安が 直撃し、03年には高値から95%安の182万円まで落ち込んだ。

会員権相場と同じ資産価格の代表である株価は、日経平均株価が89年の最 高値から03年安値まで80%下落。土地取引の基準となる公示地価は、東京圏の 商業地で91年のピークから2005年まで79%安という状況で、ゴルフ会員権相 場の傷跡の大きさがうかがえる。しかし、戦後最長の景気拡大局面によって日本 経済はデフレ経済から脱却し、株価と土地価格を回復に導いた波がゴルフ市場に も届こうとしている。

住地ゴルフの小林隆太郎社長は、「団塊の世代が来年から大量に退職時期に 入る。関東のゴルフ会員権の書き換え(売買)割合は5%で、年間約5万しか売 り注文が出ない中、定年後にゴルフを楽しみたいという潜在的な買い手の多さが、 相場上昇の要因となっている」と解説した。

団塊世代の過去、60代で強まるスポーツ志向

団塊世代とは、第2次世界大戦直後の第1次ベビーブーム世代の1947-49 年生まれを指し、総務省統計では04年10月時点で約676万人と、全人口の約

5.4%を占める。経済産業省の社会生活基本調査によると、91年に最も推計ゴル フ人口の多かったのが、団塊の世代を含む当時40-49歳の年齢層だった。ゴル フ業界が団塊世代の退職に期待を寄せる背景には、こうした事情がある。

日本総研による「家計調査(総務省発表)」の分析結果では、50歳代と60 歳代では大きく消費の中身が変わる。50歳代の支出を100とした際、60歳代の 支出で大きく増えるのは「外国パック旅行(152)」「スポーツ施設(151)」、 「国内パック旅行(147)」「ゴルフ用具(134)」など。60歳代は健康維持や 趣味のため、通常ではスポーツ志向が極めて強いという。

分析を行った小方尚子主任研究員は、「60歳代は高齢者の中では最も若い 年齢層で、アクティブに余暇を楽しむ傾向がある。その年代に最も人口の多い団 塊世代が突入し、ゴルフ関連市場は人数増加メリットと1人当たり支出額増加メ リットとをダブルで享受する可能性がある」と指摘する。

団塊の世代を含めた幅広い層にアピールするゴルフの魅力について、アコー ディア・ゴルフの竹生社長は「80-90歳になっても行えるスポーツはゴルフ以 外になく、ボーリングなどと違ってプレーする各コースの顔が違うことからいろ んな場所に行って楽しむことも出来る。接待によるゴルフからファミリーでゴル フを行う時代に日本が変わることで、成長機会はまだまだある」と予測した。

中期的には育成が課題に

世界的会計グループのメンバーファームで、ファイナンシャルアドバイザリ ーサービスを手掛けるKPMG FASの栗原隆シニアマネージャーは、「ゴル フ場は景気回復で恩恵を受けているが、東京からのアクセス時間や規模の利益を 追求できるかなどで、『勝ち組』と『負け組』とに二極化が進展している」と分 析。全体に恩恵が及ぶほどの需要動向ではないと、冷静な見方だ。

PGMのサイダル社長も、「ベビーブーマーの参入でこの7年程度の市場は 大丈夫だろう。その後の空席を埋めるため、当社ではジュニアプログラムを設立 したが、若年層にゴルフにもっと親しんでもらうには、業界全体で取り組む必要 がある」と話している。

米ゴルフダイジェスト誌によると、日本のゴルフ場数は2440。米国の1万 6500に次ぐ世界2位(シェア7.7%)。アジア太平洋地区ではトップで、同地区 における63%を占める。ゴルフクラブとボールの2005年市場規模は出荷ベース で1200億円と、世界市場5300億円の中でのシェアは23%と米国に次ぐ世界2 位(SRIスポーツによる推計)。