【経済コラム】ノーベル平和賞が「見えざる手」を立証-A・ムカジー

ノーベル賞105年の歴史の中で、バングラ デシュのムハマド・ユヌス氏が実業界からの初の平和賞受賞者となった。経済 学者から事業家に転じた同氏は、経済学の父と呼ばれるアダム・スミスが18世 紀に唱えた「見えざる手」が、世界で最も予想もされていない場所で機能して いることを示した。世界の最貧地域で銀行業務が成立するということだ。

ユヌス氏が設立し、貧困層への小額融資、いわゆるマイクロクレジット事 業の先駆けとなったグラミン銀行は資本主義への平手打ちだと受け取る人も多 い。そう考える人から見れば、ノーベル賞は一般的な銀行が貧困層に何の役に もなっていないことを証明したことになる。

ユヌス氏とグラミン銀に今年の平和賞を授与することを決めたノーベル賞 委員会にもそうした認識があるようだ。受賞者発表では、マイクロクレジット が貧困撲滅に「大きな役割」を果たすべきだとの見解を示した。

融資事業が大きな役割を担うのに疑いはないが、それがマイクロクレジッ トである必要があるだろうか?ここでは定義付けが重要だ。ユヌス氏の場合、 マイクロクレジットとは担保を持たない人々から成るグループへの融資を意味 する。アジアの多くの地域では貧困層への融資はこうした形になっているが、 それが最良かどうか私には分からない。

マイクロクレジットは対処療法だ。法整備の遅れ、もしくは過剰な規制に より、銀行が担保と見なすことのできる資産を個人がほとんど持たない国では マイクロクレジットは大きな助けとなっている。ユヌス氏は過去30年間、返済 責任を個人ではなくグループに求めることで貸し手の利益を守ることができる ということを訴え、大きな成功を収めた。

返済責任

借り手グループの1人が返済を怠れば、グループ全体の責任となり、仲間 からのプレッシャーが担保の代わりの役割を果たす。借り手グループがグルー プ内個人の返済を保証すると分かれば、銀行は融資に踏み切る。だがこうした やり方は、グループ内の緊張を生む。ふまじめな借り手がまじめな借り手を食 い物にすることにもなる。だが、銀行はとにかく返済を受けることができる。

世界銀行のザビエル・ジネ調査員と米エール大学の経済学者ディーン・カ ーラン氏は、両者がフィリピンで実施した実地調査を基に、個人に返済責任を 負わせる融資制度の方が「新しい借り手を獲得し、既存の借り手をつなぎ留め るのにより好ましい」との結論を得た。

貧困層がグループで返済責任を求めるやり方を受け入れるのは、それが融 資を得る唯一の方法だと知っているからだ。もし選択肢があれば、個人契約に 切り替えたいと考えるだろう。加えて、担保の問題を解決することができれば、 銀行は個人に返済責任を負わせることを選ぶことになるだろう。グループを作 り、トレーニングするのは余計なコストとなるためだ。

見えざる手

仲間からのプレッシャーに目を付けた対処療法はこれまで成功してきたが、 貸し手の権利における本当の金融改革はまだアジアでは起こっていない。多く のアジア諸国では、何を担保とするかについては自由裁量に限界があり、それ が資金を持たない者の起業活動を損なうことになっている。

世銀のメナズ・サファビアン氏を含む研究者らは3月、「担保制度改革が金 融業界に好ましい影響を与えることができる」との認識を示した。「アルバニア では、融資関連の新法が成立し登録制度が設立された2001年以降、融資のリス クプレミアムが半分に低下し、貸出金利は5ポイント低下した」という。

ユヌス氏がバングラデシュにグラミン銀を設立した30年前は、農村部に住 む貧困層と接触するのさえ、一般的な銀行には法外なコスト負担となっていた。 だが今や、通信技術の発達がこうした取引コストを大きく減少させた。ユヌス 氏のノーベル賞受賞をきっかけに、アジアの政策当局者は融資担保の法律をよ く精査すべきだ。アダム・スミスの見えざる手は、グラミン銀のような銀行を 増やすよりも迅速に貧困撲滅に寄与することになるだろう。 (アンディ・ムカジー)

(ムカジー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコ ラムの内容は同氏自身の見解です)

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