市場の【視点】港区を狙え、都心回帰で高まる投資熱―REITも転機

「有望視しているのは港区。これは陣取 り合戦だ」――。独立系J-REIT(日本版不動産投資信託)であるFCレ ジデンシャル投資法人の運用会社、ファンドクリエーション不動産投信の金子 幸司社長はこう、言い切る。

もちろん、東京・港区のことだが、オフィスビルが林立するこのエリアで 陣取り合戦とはどういうことか。都心部は人口減少が続いていたはず。それな のにビジネスチャンスで一杯だ、というのだ。首都・東京を代表するお洒落ス ポットでいま、起きている不動産投資フィーバーを追った。

FCレジデンシャル投資法人の主要な投資対象は賃貸住宅とホテルだ。中 でも“一等地集中”“築浅”“駅近”“高稼働率”を重要視している。4つの キーワードを全部、セットで兼ね備えているのはやはり東京都心部だ。

このため、組み入れポートフォリオを地域別に見ると、港・千代田・中央 のいわゆる都心3区で約70%(2006年3月末時点)に達している。これは競 合する住居系J-REITの平均37%と比べれば、2倍近い水準になる。

人気の3A抱える港区、中央区は31年ぶりに10万人

4月1日時点での港区の人口は18万965人。1月1日時点では17万6781 人となっており、わずか3カ月で4184人、率にして2.4%増えた。同じ期間の 東京都の増加率は0.2%にとどまるため、港区の人口増加ぶりは顕著だ。東京 都が毎月公表している人口増加の多い区市町村ランキング(対前年同月比)で も、4月は1位の江東区に次いで港区が2位だった。

また、今年4月には中央区でこんな話題もあった。「定住人口が31年ぶ りに10万人台を回復」――。中央区の人口は1953年1月にピークの17万 2183人を数えたが、その後は都市化の進行、バブル経済崩壊の中で40年以上 にわたって人口減少のトレンドが持続。1997年には過去最低の7万1806人ま で落ち込んだ。

まさに“都心回帰”。それを反映するかのように、大規模再開発、マンシ ョン建設が相次いでいる。戦後一貫して右肩上がりを続けた都心部の地価。サ ラリーマンではとても手が届かない住居ばかりとなり、“都心回避”の原因と なった。

それがバブル経済の崩壊とその後の景気低迷をきっかけに大きく下落。場 所によってはピーク時の10分の1以下まで地価が下がった。再開発で誕生し たマンションにも、サラリーマンがここぞ、とばかりに殺到。特に港区は人気 の「青山、赤坂、麻布のいわゆる『3A』を抱えている」(金子社長)ため、 不動産運用サイドからも熱い視線が注がれているというのだ。

東証REIT指数は算出来高値―NAV期待が背景

東京証券取引所に上場するJ-REIT30社で構成される東証REIT指 数は5月8日、4日続伸して1768.87ポイントで引けた。一時は1770.05ポイ ントまで上げ、この水準は03年3月末に同指数の算出を開始して以来の高値 となる。

日本の不動産市況の底打ちを反映するように、チャート(けい線)は右肩 上がりの状況を続け、特に日本政府による景気の踊り場脱却宣言を受けた昨年 夏以降、国内外投資家の中で強まった日本経済の脱デフレ期待に支えられて上 昇ピッチが加速した。

その後は過熱感、建築物の構造計算書偽装問題の発覚などがあり、一時 1700ポイントに迫った指数は昨年末にかけて1500ポイント付近まで反落する が、年明け以降は再度じわり上値を目指す展開となっている。

ゴールドマン・サックス証券の千代田敦子アナリストは、J-REITの 最近の動きを「これまでの評価は配当利回りが中心だったが、ここへきて上位 銘柄の利回りは2、3%、中小は4%台と差があり、違う評価が出ている。背 景には賃料上昇への期待、保有不動産の裏のアセット価値を見出そうとの動き があり、NAV(1口当たり純資産)がもっとあるのでは、という期待もあ る」と分析する。

商業施設・オフィス系ファンドが優位

3月に国土交通省が発表した06年1月1日時点における全国公示地価は、 こうした市場の見方を裏付けている。東京、大阪、名古屋の3大都市圏を中心 に住宅地、商業地とも回復傾向を鮮明にし、中でも東京都は住宅地が前年比

0.8%増、商業地が2.9%増と、ともに15年ぶりに上昇へ転じた。全国平均も

2.7%減と、前年から下落率を縮小させたものの、主要都市部の回復スピード は地方圏との比較で際立つ。

東証REIT指数採用の30社も、母体が大手不動産系か、独立・新興企 業系か、運用対象がオフィス中心か住居中心か、あるいは物流施設中心か、組 み入れ物件は都心中心か地方を含むか、などさまざまだ。

投資家心理、不動産市況の現状は銘柄間のパフォーマンス格差にも表われ、 新局面に入った今年初から5月8日までの騰落状況を見ると、算出可能な26 社のうち、上位は東急リアル・エステート投資法人(25.8%高)、野村不動産 オフィスファンド投資法人(20.2%高)、日本ビルファンド投資法人(16.6% 高)、阪急リート投資法人(14.6%高)、ジャパンリアルエステイト投資法人 (13.2%高)など母体が大手不動産会社、電鉄会社系で、商業施設やオフィス ビルを中心に運用するファンドが軒並み並んだ。

一方、下落したのはニューシティ・レジデンス投資法人(3.5%安)、プ ロスペクト・レジデンシャル投資法人(3.5%安)、プレミア投資法人(2.1% 安)の3ファンドにとどまり、これらは運用対象に賃貸住宅を含んだり、母体 が独立系運用会社などという点が共通項になっている。

東証REIT指数への連動を目指す公募投資信託の運用担当者の間からも、 商業施設・オフィス系ファンド優位の声が多く、こうした状況をゴールドマン 証の千代田氏は「オフィス系は物件が足りないと言われ、レジデンシャル系の 稼働率は落ちていないが、敷金・礼金なしという物件も少なくなく、これは供 給過剰を示していると言える。また、住居賃料はもともと大きく上がりもせず、 下がりもしない景気変動に対する鈍さがある」と解説した。

ニッセイ基礎研究所の指摘によれば、東京都心部の高級賃貸マンションの 空室率は2004年第2四半期の11.2%をピークに低下しているが、2005年第3 四半期時点では依然8.9%の高水準にある。月坪1万5610円という05年第3 四半期の賃料も、下落基調に底打ち感は見えるものの、2000年第4四半期の1 万7660円の水準には及ばない。

住居系が直面する4つの逆風―集中力が強みに

「生き残るためには明確な特徴が必要だ」――。レジデンシャル系ファン ドにはどちらかと言えば向かい風が吹く中で、ファンドクリエーション不動産 投信の金子社長は4月上旬に米国の投資家を回り、05年10月の上場から日が 浅い自社ファンドのIR(投資家向け広報)に努めた。同投信が運用するFC レジ投の株価も、昨年11月29日に付けた高値46万6000円を抜けきれず、40 万円台前半でのこう着が続いている。

金子社長は、住居系ファンドには現在4つの逆風が吹いていると指摘。1 つは耐震強度の偽装問題で、2つ目は住宅の大量供給に伴う賃料上振れ期待の 希薄さ、3つ目がファンドの設立母体に新興企業が多く、参入障壁が低いので はという不安感、4つ目に過去20年間は賃料が大きく上がらず、本格的なイ ンフレがまだ起きていない状況を挙げた。

「しかしこれから本格的にインフレが起きれば、価格が上がりやすいのは ニーズのある所で、さらに価値が上がる順番は一等地のオフィスの次に一等地 の住宅になる。また、高コスト体質の大手では手掛けにくい面もあり、一等地、 築浅、駅近を重要視していく」(同社長)という。

FCレジ投の集中力は、都心3区物件の保有率のほか、築年数や最寄り駅 からの所要時間比較でも顕著だ。取得物件の平均年数は満2.6年と競合ファン ド平均の約4年を下回り、駅から徒歩3分以内の物件比率は67%と3割弱にと どまる競合平均の2倍以上に及ぶ。

金利が上昇してもREITはあまり下がらなくなった

「REITは金利動向に敏感で、基本的に地方銀行による保有が多く、以 前は長期金利が上昇すると、REITは素直に下げていた。しかし最近は、金 利が上昇してもREITはあまり下がらなくなっており、外国人を中心にNA Vなどを見て投資家が動いている表われだろう」――。ゴールドマン証の千代 田アナリストは、現在のJ-REITの動きをこう見つめている。

年明け以降、再度加速するJ-REITへの期待。しかし、千代田氏は 「全般的に賃料上昇への期待はやや過剰」と警鐘を鳴らし、J-REITに対 する投資判断を「ニュートラル(中立)」にとどめている。

金利が1%上がるとREITのコストも上がり、配当利回り、金利とのイ ールドギャップを維持するには稼働率の上昇と賃料上昇の双方が求められる。 しかし、すでに大手の稼働率は95%程度と高く、賃料を上げるとなれば17% 程度の上昇が必要になる計算だ。

「丸の内地区のオフィス賃料が20%、30%上昇と言われているが、これは 新規ビル入居に伴うもので、相対的に年間では良くて2、3%、つまり5年近 くかかることになる」(同氏)。順風に押されるオフィス事情でもこうした現 状で、賃料上昇が緩やかな住居系ファンドには一段高いバーが立ちはだかる。

商業施設を中心に組み入れる日本リテールファンド投資法人の運用会社、 三菱商事UBSリアルティの廣本裕一社長はブルームバーグ・テレビとのイン タビューで、配当利回りが「このまま3%を切ってどんどん下がっていくのは、 投資家は容認しない。投資した物件の賃貸料収入、収益を上げていく『内部成 長』に努力していかないと、株価は上がらない」との認識を示している。

アイデアで勝負の時代―M&Aの脅威も

国内金利が上昇基調を強めてきた中で、利回り商品として見られてきたJ -REITの存在意義も大きく変わり始めた。その背景には、日本の脱デフレ 色の強まりから不動産や株式市況が上昇し、それらをストレートに反映するイ ンフレヘッジ資産としての側面にスポットが当たってきたことがある。

ゴールドマン証の試算によると、J-REITの含み益合計は最も多い日 本ビルファンド投資法人を中心に約1300億円。REITは「資産の長期保有 が前提で、売却益による利益のぶれは安定配当という点とも相反し、実現しに くい」(千代田氏)事情はあるが、含み益の実現化に向けた挑戦も徐々に始ま った。

日ビルF投が会計上のスキームを使い、三井不動産と「JFEビル」の資 産交換を行ったほか、日リテF投が借地権を用いて「エスキス表参道」の建て 替えを決めたことなどがその具体例だ。

オフィス系に比べて運用環境が厳しい住居系で、一等地集中などで活路を 見出そうとしているFCレジ投などの動きも、変化し始めたJ-REITの中 での生き残り、株価上昇を目指す新たな挑戦、戦略と言えそうだ。

「社会構造が変わって高額商品が売れ、ライフスタイルの変化で買うより も借りるという動きが強まってきた。外国人も増え、高額物件には景気敏感性 がある。一方で、一等地の住宅は空いてもすぐに埋まり、ボラティリティは低 い」と、ファンドクリエーション不動産投信の金子社長は港区を中心とする都 心へのこだわりを見せた。

アイデアを凝らし、株価の上昇を目指さざるを得なくなったJ-REIT 各社。背後には、日本企業全体に忍び寄るある事情も存在しているという。日 本の脱デフレ色が一層強まり、海外からの大量資金が日本の不動産市況に流入 してきた時、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れのJ-REITは、M&A (企業の合併・買収)の脅威にさらされる」(金子社長)。

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