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ソフトバンク:一部格上げもスプレッド大幅拡大-投資家は買収に対峙

ブロードバンド通信国内2位のソフトバン クによる携帯電話で世界最大手の英ボーダフォンの日本法人(以下、ボーダフォ ン)の巨額買収が17日、正式に発表されたことを受けて、ソフトバンクとボー ダフォンの社債スプレッド(基準金利への金利上乗せ幅)は一段と拡大した。

この買収は、LBOファイナンス(買収相手先の資産や将来のキャッシュフ ローを担保にした借り入れ)を用いたもので過去最大規模の買収事例となった。 日本の社債投資家がこれほど大きなLBOを用いた巨額買収を目にするのは初め てで、スプレッドは多額の財務負担への懸念から、一気に急激に拡大し、社債市 場への影響は極めて大きいものとなった。ボーダフォン買収発表後の社債市場の 反応やソフトバンクの信用力を総括する。

相次ぐ格下げ、ムーディーズは引き上げ方向

ソフトバンクの格付けについては、スタンダード・アンド・プアーズ(S& P)、日本格付研究所(JCR)が格下げ方向で見直しを表明した。ボーダフォ ンについては、ムーディーズ、S&Pともに格付けを引き下げた。特にS&Pは、 ボーダフォンを一気に6段階も引き下げてBB+とし、投資適格級から投機的等 級となった。

一方、ムーディーズは、買収発表の記者会見が行われた17日夜、ソフトバ ンクの格付けBa3を引き上げ方向で見直すと発表した。すでにS&PやJCR が、同社の財務状態悪化の懸念から格下げで見直しを発表した後だっただけに、 ムーディーズの強気の信用判断は社債投資家やクレジットアナリストなど市場関 係者を驚かせた。

ムーディーズの判断は理解に苦しむとの指摘もあるなか、T&Dアセットマ ネジメント・信用リスクマネジメント部の沖田芳弘部長は、「財務諸表の良し悪 しは信用リスクを判断するうえの1つの判断にとどめるべきだ。ソフトバンクが 第3の通信会社となるか、事業投資を専門に行う投資会社となるかをよく見極め ることが信用判断の根幹にある」としたうえで、「他の格付け会社が格下げで見 直しを発表するなかで、ムーディーズがこの観点から、あえて独自の信用判断を したことは評価に値しよう」との見解を示している。

沖田氏は、ムーディーズの判断が正しいのか間違っているのかは別問題で、 それは投資家が自ら判断するべきだともいう。ソフトバンク・広報室担当者は、 格付けについてのコメントは差し控えるとしている。

投資家は巨額買収に対峙

ソフトバンクは総合通信会社として、先行するNTT、KDDIに迫る勢い をみせるなか、今回の買収は日本の社債市場にも影響を与えている。ソフトバン クやボーダフォン、さらにソフトバンク傘下の日本テレコム3社はいずれも日本 市場で社債を発行しているからだ。

かつてNTTドコモが社債を発行した際に、米AT&Tワイヤレスなど海外 の企業買収が成功したとは必ずしもいえないなかで、ドコモの事業リスクや財務 状態悪化懸念が社債の販売にも影響を与えた事例がある。今回も社債投資家は、 この巨額買収と対峙することを迫られている。

格下げ懸念で社債スプレッドさらに拡大

3月4日に英ボーダフォンとソフトバンクの買収交渉が明らかになったのを 受けて、ソフトバンク、ボーダフォン、さらにソフトバンク傘下の日本テレコム が過去に発行した社債スプレッドはいずれも大幅に拡大し、17日の正式発表後 に一段と拡大した。

ソフトバンクが発行した国内普通社債(SB)で2010年9月満期の第22回 債(発行額400億円)を例にとると、3月上旬まで国債利回り+130bp(1bp=

0.01%)程度で安定的に推移していたスプレッドは、買収交渉が明らかになった のを受けて、国債利回り+250bp程度へと一気に100bp以上も拡大した。さらに、 17日午後以降、一段と拡大して、現在は国債利回り+350bp程度で推移している。

ソフトバンクの格付け(JCRでBBB)と同じトリプルB格の双日(JC RでBBB-)の社債(残存4年)のスプレッドは、国債利回り+130bp程度と なっていることをみても、3月4日からのソフトバンクの社債スプレッド拡大幅 +220bpは、いかに大きいかがわかる。

野村証券・金融市場情報管理部の村山誠シニア・クレジットアナリストは、 「JCRがソフトバンクについて、見直し方向をネガティブとしたことから、2 段階以上格下げになる可能性を社債市場は警戒し始めたものと思われる」とスプ レッド拡大の背景を語る。また、T&Dアセットマネジメントの沖田氏は、「L BOファイナンスによって、ソフトバンクの財務内容の悪化を懸念する投資家が 多かったのだろう」と指摘する。

ムーディーズは格上げ方向で見直し

今回の買収では、格付け会社から、ソフトバンクやボーダフォンに加えて関 連企業などの信用評価についての発表が相次いだ。

買収の発表前、ソフトバンクの信用力は、ムーディーズでBa3、S&Pで BB-とすでに投機的等級、JCRではBBBとしている。ボーダフォンについ ては、ムーディーズがA2、S&PはA+、フィッチ・レーティングスがAとし ている。また、ソフトバンク傘下の日本テレコムについては、格付投資情報セン ター(R&I)がBBBとしている。

買収交渉が明らかになった3月4日から24日まで、S&PとJCRがソフ トバンクについて格下げ方向で見直しを開始した。買収対象となったボーダフォ ンについては、S&PがA+からBB+へと6段階、ムーディーズはA2からB aa2へと3段階、それぞれ引き下げた。日本テレコムについては、R&IがB BBの格付けを引き下げ方向で見直した。一方、ムーディーズは、ソフトバンク の格付けBa3を引き上げ方向で見直すとした。

定量分析と定性分析

このような信用評価の相違は、計量的な財務状態の認識など財務分析に基づ く定量分析と、ボーダフォン買収後、総合通信会社へ変貌を遂げようとするソフ トバンクの将来性や相乗効果、つまり定性分析という2つの基礎的な分析手法で、 評価の重点の置く程度がさまざまなことから生じるものと考えられる。そして、 今回は足元の財務状態、つまり、定量分析の方により重点を置く見方が多く、格 下げなどネガティブな判断につながっている。

JCRでは、ボーダフォンを含めたソフトバンクグループの事業戦略や同グ ループとボーダフォンとの相乗効果、財務状態などを検討したうえで格付けを見 直すとして、「LBOにより多額の負債が調達されるため、ソフトバンクの連結 ベースの財務内容は悪化する可能性が高く、見直し方向はネガティブ」という。

S&Pでは、「買収金額は2兆円近くに及ぶと一部で報じられるなど、ソフ トバンクの事業規模(2005年3月期で売上高8370億円、総資産1兆7000億 円)に比べて財務上の負担が極めて大きくなる可能性がある。特に資本・負債構 成はぜい弱であるため、買収により実質的な有利子負債が大幅に増加した場合に は、財務内容の悪化は避けられず、格付けにマイナスの影響が及ぶ可能性があ る」としている。

一方、ムーディーズは、「ソフトバンクグループは広範な通信サービスを提 供する事業戦略を遂行してきており、今回の買収でソフトバンクが競争力ある総 合通信事業者となり、同社の通信事業全体にプラスに作用するものと考えてい る」という。日本の通信業界は急速に変化しており、顧客の需要に対応するには、 携帯事業とブロードバンド(高速大容量)サービスの双方を持つことが重要であ るとしている。

さらに、財務状態についてもムーディーズは言及し、「買収の規模は大きい が、それによってソフトバンクグループの財務レバレッジ(自己資本に対する負 債の額の比率)が大きく変化することはないとみている」という。

つまり、S&P、JCR、ムーディーズの3社とも、財務内容と事業の将来 性の双方に言及しながらも、どちらかに重点を置いて結論を出していることがわ かる。S&Pは、「インターネット関連事業で広く強みを持つソフトバンクにと って、コンテンツ(情報内容)を武器にFMC(固定通信と携帯通信の融合)を 視野に入れたサービスを提供する基盤を一気に整えることも可能になるとみられ る」とソフトバンクの将来像を評価しながらも、財務負担の方が格付けに大きな 影響を与えるとみる。

アナリストの評価

クレジットアナリストの間でも、同じ材料を認識しながらも信用評価につい ては見方が分かれた。三菱UFJ証券・金融市場戦略部の下松慈明シニア・クレ ジットアナリストは、財務分析の結果、「2005年度第3四半期末時点で10.4%に 過ぎなかった自己資本比率は5%台に落ち込むと推計される。財務構成悪化の可 能性から、JCRやR&Iの見解の方が、妥当性がある」との見解だ。

すなわち、「ソフトバンクの信用力は買収に伴うグループ全体の財務悪化を ベースとして考えるべきであろう。実際、ボーダフォンの事業展開のために、ソ フトバンク本体や子会社のヤフーの資産やキャッシュフローが利用されることに なるとみられるほか、ボーダフォンの経営が悪化した場合には、ソフトバンクが 金銭的な面で追加支援を行う可能性は大きいと考えられるためだ」という。

買収は普通の会社への変貌のプロセス

一方、モルガン・スタンレー証券クレジット調査部の牧田清隆シニア・アナ リストは、「信用力で劣る企業(ソフトバンク)がキャッシュフローの安定した 信用力で優る企業(ボーダフォン)をLBOファイナンスで買収したことになり、 買収後の信用力やLBOの仕組みを考えると、信用力をネガティブとみるのは早 計」と語る。

さらに、牧田アナリストは、ソフトバンクのクレジットストーリー(信用力 の将来の見通し)についても言及する。「日本テレコム、ボーダフォンやADS L(非対象デジタル加入者線)事業の黒字化などによって、ソフトバンクに対す る市場の評価は、得体の知れない投資会社から、ブロードバンド(高速大容量) 企業へと徐々にシフトしていく可能性が高い」とし、将来の事業に対する見通し、 つまり定性分析を重視している。

さらに、「特に、買収前のソフトバンクとボーダフォンの規模を鑑みれば、 孫(正義)社長が好むと好まざるとにかかわらず、大手通信会社の一角として、 普通の事業会社へと変貌するプロセスに入ったといえ、この点はポジティブに評 価できる」という。

つまり、従来のソフトバンクは投資会社的な側面が多く、株式投資家には向 いているが、社債投資家には不向きな企業だとの見方が多かったが、その見方も 転換点を迎えているというわけだ。

巨額買収で試される投資家の力量

多くの企業買収などで事業の変動性が大きく、過大な有利子負債を抱えたが ゆえに2000年9月以降、「BBB(トリプルB格)」からいまだ脱しきれない企 業が今、さらに大きな買収を行った。従来からソフトバンクについて、「孫氏は 大風呂敷を広げるが、ウソはつかない」と持論を展開してきた三菱UFJ証券・ 法人営業支援部の大寄浩志部長代理は、今回の買収でもその言葉は当てはまると し、一定の評価をしている。

確かに、過去に半導体メーカー買収で失敗をおかすなど紆余曲折もあるなか、 孫社長が自ら17日の会見で、「気がつけば、かなり遠くに来たものだ」と語った ように、ポータル(玄関)サイトの米ヤフーへの資本参加(1995年)、日本テ レコム買収(2004年)など前進を続けてきた。社債スプレッド、格付け会社の 反応、財務状態、通信業界の将来像などを考えながら、巨額買収を敢行した孫社 長に資金を託すことができるのかどうか、投資家は自らの判断を迫られている。

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