ルクセンブルクの鉄鋼労働者:ミタルによる買収案提示は「海賊行為」

ルクセンブルクに住む引退した元鉄鋼メー カー労働者、アーマンド・ボーシュ氏(68)は、自宅のキッチンテーブルをた たき、アルセロールに対するミタル・スチールの敵対的買収案の提示を「海賊行 為だ」と断じた。世界2位の鉄鋼メーカー、アルセロールは、ルクセンブルク最 大の雇用主であると同時に最大手企業でもある。

ボーシュ氏はルクセンブルク南部の都市、エッシュシュルアルゼットの連棟 住宅の一角にある自宅でインタビューに応じ「どの国もその国の企業に対する権 利を持っている。ミタルは製鉄所を全て閉鎖し、欧州東部に移転するつもりだ」 と述べた。この都市には、アルセロールの製鉄電炉とともにアールデコ(1920 -30年代の装飾様式)の建物が立ち並ぶ。

ボーシュ氏は、ルクセンブルクに住む数千人の鉄鋼労働者と同様に、アルセ ロールを世界最大の収益力を誇る鉄鋼メーカーにするため一生を費やした。鉄鋼 メーカー最大手、オランダのミタルの会長であるインド出身の資産家、ラクシュ ミ・ミタル氏は1月27日、アルセロールに対し219億ドル(約2兆5700億 円)規模の買収案を提示した。ルクセンブルクでは、人口46万8000人のうち 6000人がアルセロールで働く。同国の調査機関TNSイルレが2月3-7日に 実施した調査によると、成人10人のうち7人が買収案に反対姿勢を示した。

ルクセンブルクのユンケル首相は買収を阻止するため最善を尽くすことを約 束。アルセロールの社員2万6000人を抱えるフランスも買収案に反対している。 ルクセンブルク議会の委員会では22日、ミタルの買収案阻止を目的に提案され た法案が否決され、アルセロール擁護派による策略は失敗に終わった。

英キャンター・フィッツジェラルドの株式調査責任者、スティーブン・ポー プ氏は「これは政治的なスタンドプレーにすぎない」と指摘。「自由市場を妨害 しようとしているのなら、常軌を逸している。わたしはミタルによる買収が成功 すると思う」との見方を示した。

1800年代初頭に飢饉に見舞われたルクセンブルクを製造業の拠点へと生ま れ変わらせた鉄鋼業は、同国にとって重要な意味を持つ。第一次世界大戦前には、 工業労働者の約3分の1が鉄鋼業界で働いていた。鉄鋼業に代わって金融サービ ス業が同国経済の主要な原動力となったものの、ルクセンブルク政府は依然、ア ルセロール株の5.6%を保有している。

市庁舎の彫刻

ブティックや宝石店が並ぶエッシュのメーンストリートにある市庁舎には、 煙突を背景にハンマーを抱える労働者が彫刻されている。彫刻の上部には、ルク センブルクのモットーである「あるがままであり続けたい」という言葉が刻まれ ている。

ミタル会長は、買収後、欧州で人員を削減しないと誓約。また、ミタル会長 は、統合後の新会社について、中国やインドの企業に対抗することで欧州での雇 用を確保することができるため、ユンケル首相による買収阻止が成功することは ないと「確信する」と述べた。ミタル会長は17日、ベルギーの首都ブリュッセ ルでのインタビューで、買収阻止が決定されれば「欧州にとって非常に残念な事 態となるだろう」との見方を示した。

ミタルの卓越性

ミタル会長は、買収後の企業の本拠地をアルセロール本社に置く方針も明ら かにしている。ミタルの現在の本社は、オランダのロッテルダムにあるコンクリ ート製超高層ビルの2フロア分を占める。ビルはかつて英・オランダ系石油会社 ロイヤル・ダッチ・シェル・グループが所有していた。

ミタル会長はインタビューで「われわれの狙いは、雇用を確保するとともに 投資と成長を継続し、中国や、もしかするとインドの企業と競合する健全な欧州 企業を創造し世界チャンピオンを誕生させることだ」と語った。

ルクセンブルク議会の委員会は22日、ミタルに対し現金のみでのアルセロ ール買収を課すことを目指す法案を否決した。また、同議会は5月20日までに、 買収関連法案の採決を予定している。同法案では、敵対的買収に対する防衛策と して買収者の持ち株比率を下げるポイズンピル(毒薬条項)の適用を認めている。

ボーシュ氏宅のキッチンでは、冬の終わりの陽光が同氏の両目に反射して輝 いていた。同氏は、鉄鋼業界は現状を維持するべきだと主張する。「ルクセンブ ルク人がアルセロールを動かしているのであり、人々やその考え方を理解してい る」と締めくくった。

原題:Luxembourg Steelworkers Battle Mittal's Hostile Bid for Arcelor

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