ソフバンク:ドコモ、KDDI追撃へ-「新電波帯」の行方注目(2)

「決して総合通信会社になったとか言わな いでいただきたい。目指すのは総合デジタル情報サービスカンパニーです」――。 ソフトバンクの孫正義社長は17日夕、ボーダフォン日本法人買収の発表記者会 見でこう訴えた。

日本企業として過去最大の買収劇をまとめた孫社長とボーダフォン日本法人 のビル・モロー社長。ともに会見で交渉は「大変タフだった」と感想を漏らした ものの、孫社長の表情からは笑みがこぼれた。

ソフトバンクは、ボーダフォン日本法人の株式約98%を1兆7500億円で取 得。固定電話と携帯電話のサービスを複合的に展開し、先行するNTTグループ とKDDIを追撃する態勢を整えた。ソフトバンクは売上高2兆5000億円の巨 大企業になる。

JPモルガン証券の勝間和代アナリストは、全体の印象として、ソフトバン クグループが「ようやくモバイルブロードバンドの登山口に達した状態」と指摘、 「目指すオールIPユビキタスネットワーク実現にはまだまだ険しい道が待って いる」としながらも、「基本戦略は間違っておらず実現へ向けた努力に期待はし ている」との見方を示した。

ソフトバンクの06年3月期の売上高は連結ベースで1兆円に迫る見通しで、 営業利益ベースで通期黒字達成が目前。孫社長は当初、07年4月から携帯電話 事業に新規参入してサービスを開始する予定だったが、買収により「まったく新 規でネットワークをゼロから作ることに比べれば、苦労ははるかに小さくて素早 くできる」と述べた。

大手2社との差は歴然

ボーダフォン日本法人の前身はJ-フォン。旧国鉄系だった日本テレコム傘 下にあったが、英ボーダフォンが01年に日本テレコムを買収、その後、ソフト バンクが日本テレコムの固定通信事業を買い取った経緯がある。今回、孫社長が 携帯事業を買収したことで、再び元の鞘に戻ったとの見方もできる。

孫社長は昨年までは、ネットワークについて既存の携帯電話会社から回線を 借り受けるMVNO方針を検討していたものの、今年に入ってから、買収による ネットワーク整備の方が「早い」という理由で、方針を切り替えたことを明らか にした。

ソフトバンクにとって今回の買収の最大のポイントは、2兆円に迫る資金調 達リスクを抱えながら、携帯電話で苦戦しているボーダフォン日本法人をグルー プ事業に取り込み、拡大発展させることが中長期的に可能かどうかにある。

今年2月の携帯各社の契約者数(電気通信事業者協会)は、合計9077万人 で、うちボーダフォンは約1515万人と、ドコモの約5066万人、KDDIの約 2496万人に大きく見劣りする。3G(第3世代)契約者数でもドコモの2200万 人、KDDIの2100万人に比べて、ボーダフォンは270万人とその差は歴然と している。

また契約者数だけではなくネットワークの品質について、孫社長は会見で、 ボーダフォン日本法人の3Gの端末では「まだまだつながらないところが多いと 認識している」と述べ、今後は「徹底的につながることにこだわってネットワー クを強化していきたい」との考えを示した。

新電波帯の取り扱い

総務省が昨年認可した電波帯1.7ギガ(ギガは10億)ヘルツ帯は、ソフト バンクを含む携帯電話サービス事業3社が新規参入する予定になっている。いち よし経済研究所の納博司・主席研究員は、ソフトバンクが今回の買収によりボー ダフォンの既存ネットワークを使うことが明らかになったことについて、「新規 格でのソフトバンクの活躍を期待していただけにやや失望感がある。ひょっとす ると業界的には新規参入が1社無くなっただけに終わるかもしれない」と指摘す る。

一部業界関係者は、ソフトバンクがこれまでに無かったインフラストラクチ ャーを構築し、高速データ通信網を立ち上げる可能性に期待していただけに、高 速データ通信網では、「イー・アクセスなど残りの新規参入組の方が相対的には 優位に立ったような印象を持つ」(納氏)とも語る。

新電波帯の認可は新規参入を条件に認められものであり、ソフトバンクは返 上すべきだとの声も上がっている。NTTドコモの中村維夫社長は16日にブル ームバーグ・ニュースに対して、「返すのが当然」と明言。孫社長は会見で電波 帯については、「総合的な面で総務省と相談する」と発言するにとどめている。

ソフトバンクは、今回の買収で、基幹ネットワーク統合によるコスト削減が 期待でき、携帯事業での経験のある人材やノウハウを獲得できる利点もあると説 明。ボーダフォンの出資で、グローバルな端末調達でもコスト削減が可能という。 さらにヤフーの出資により、携帯事業でのコンテンツ(情報の中身)配信で強み を発揮し、早期に国内2位を狙う方針だ。

NTT、KDDIと同じ土俵で

通信業界は現在固定と移動体通信の融合であるFMCのサービスに注目が集 まっており、ソフトバンクもこれでNTTグループとKDDIと同じ土俵での勝 負となる。そこにヤフーの集客力とコンテンツ配信が加われば、キャリア2社と 互角の勝負ができると踏んだ孫社長が一気に勝負に出た格好だ。

ただ、孫社長は具体的な事業戦略について、社名変更の方針は打ち出したも のの、サービスや価格については「これから」と述べるにとどめている。今後 「半年から1年程度かけて」(孫社長)徐々に戦略を打ち出すことになる。11 月からはナンバーポータビリティ(契約する通信事業者を替えても、携帯電話の 番号を変えずに済むシステム)が始まり、携帯電話事業での競争は一段と厳しい ものになりそうだ。

勝間アナリストは、今回の買収劇の携帯電話業界への影響について、「これ までの比較的弱かったボーダフォンよりも既存業者にとって脅威は高まった」と みる。ボーダフォンは、日本では戦略的には間違っていなかったが「戦術的に失 敗した」と指摘し、ソフトバンクグループは基本に立ち返り、「ボーダフォンが 本当にやりたかった事業展開に挑戦することになるだろう」との見通しを語った。

アナリストの見方

20日に証券各社のリポートが発表された。三菱UFJ証券の佐分博信アナ リストは、ソフトバンクは約1500万人のユーザー基盤で事業をスタートしたこ とになると指摘、ただ「時間を買ったものの、一方で現在約6000円のARPU (1加入者当たりの平均月間収入)が5000円に低下するだけで約1800億円の減 収減益要因になる」と試算する。

一部関係者は、ソフトバンクが低価格を打ち出し、他の既存通信キャリアと の激しい値下げ競争に入るとの戦略は打ち出しにくくなったとの見方が出ている。

メリルリンチ日本証券の合田泰政アナリストは同日付のリポートで、ドコモ やKDDIの株価バリュエーションと比較して割高な買収だと指摘し、携帯電話 事市場がドコモとKDDIの上位2社の「複占体制」に移行しつつあるなかで、 「非常にリスクの高い買収案件」との認識を示す。

さらに、今後ソフトバンクが携帯電話事業での競争力強化に向け、ヤフーの サービスやブランドを利用することは避けられないとの見方を示したうえで、 「シェア17%にすぎない規模の携帯電話加入者向けに何らかの排他的サービス を提供することは、パソコン向けポータルで圧倒的シェアを誇ることが収益基盤 となっているヤフーとしては、必ずしも最善の戦略とはならない場面もある」と の考えを示している。

勝間アナリストの20日付のリポートでは、携帯電話事業でソフバンクと事 業提携したヤフーについて「短期は資金負担が気がかり、中長期ではポジティ ブ」との立場をとる。また、無線ブロードバンドが立ち上がったと仮定して「こ れまで大掛かりに展開できなかったモバイル向けポータル事業について、課金網 の取得やボーダフォンとの共同事業による他国への展開も含め、可能性が広が る」との見通しを示した。

ソフトバンクの20日の株価終値は前週末比50円(1.6%)高の3190円、ヤ フーは同1000円(0.7%)安の14万6000円だった。17日金曜日の英国市場で の英ボーダフォン・グループの株価は同1ポンド1ペンス(0.8%)安の129ペ ンス。

--共同取材:若尾藍子、小笹俊一、上野英治郎  Editor : Taniai

Peter Langan (81)(3)3201-7241 plangan@bloomberg.net

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