金融取引の興奮はセックスと同じ-トレーダーの脳内スキャンが示す

深夜の米スタンフォード大学の地下実験室 で、ブライアン・クヌートソン教授は驚くべき発見をした。人間の脳がお金を 欲しがる仕組みは、セックスを求める仕組みと同じだということだ。

2004年5月のことだった。スタンフォード大の神経科学・心理学教授の同 氏は、fMRIと呼ばれる画像装置を使い、ボランティアで実験に参加した学 生たちの脳を観察していた。学生たちの脳内では、ニューロンの間を電流が駆 け巡っている。学生たちが株・債券取引のゲームをすると、血液が脳内の快感 を司る部分に集まる。

研究では、セックスの快感とコカインによる陶酔、グーグル株を買う興奮 はいずれも、同じニューラルネットワーク(神経回路網)が制御していること が分かった。さらに、快感を司る回路はしばしば、理性を司る部分である前頭 葉に対して優位に立つことも分かった。つまり、株はセックスと同様に、時折 人間の心を狂わせる力があるということだ。

クヌートソン教授は、この発見が異端視されることは承知していると話す。 ウォール街が信奉しているのは、金銭にかかわることには理性が必要、つまり 投資の成功は知性次第という原則だ。この原則は、ロバート・ルーカス教授が ノーベル賞を取った合理的期待という経済理論に昇華されている。

この理論によれば、人間は入手可能な情報に基づいて経済的判断を行い、 過去の失敗から学ぶことができる。これによって、来週の株価や次四半期の決 算内容などを、概して正確に予測できるというものだ。

しかし実際には、投資家は常に愚かな行動を取る。ある投資家は理性が手 仕舞いをささやきかけているにもかかわらず、深入りして大金を失う。ある投 資家は、理性のある人なら利益を確定する局面でチャンスを見送ってしまう。

一方、この世には売買の好機を知る神秘的な能力を持った人間もいる。1970 年代にはリチャード・デニス氏が数千ドルを元手に商品取引で2億ドルの富を 築いた。1980年代には伝説のヘッジファンド運用者、ポール・チューダー・ジ ョーンズ氏が暴落直前の米株空売りで8000万ドルを手にした。1990年代には投 資家ジョージ・ソロス氏がイングランド銀行に売り勝ち、為替取引により半日 で10億ドルを稼いだ。

クヌートソン教授が知りたかったのは、なぜあるトレーダーは金持ちにな り、あるトレーダーは敗れ去るのか、だった。その答えはどうやら、人間の脳 内にある9万6000キロのニューラルネットワークにあった。

米医学誌「ニューロン」の9月号に掲載されたスタンフォード大の論文は、 投資家の行動を理解するために脳の働きを研究している神経科学者と心理学者 の間で反響を呼んだ。

2002年のノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授は、この 論議を呼ぶ分野「ニューロファイナンス」が、ウォール街の次の最前線となる だろうと話す。この分野は、伝統的な経済理論を心理学研究と結びつける。カ ーネンマン教授は「脳科学は金融の世界で将来流行となるだろう」として、「最 大限に理解を深めようとするならば、学界も投資業界も、この分野に真剣に注 目すべきだ」と述べた。