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国内自動車大手がディーゼル車にも色気、欧から日米に戦線拡大も(2)

「うるさい」「排ガスが汚い」--。日本 でディーゼル車といえば悪いイメージがつきまとう。しかし今年はその市場への 国内自動車大手の取り組みが加速しそうだ。ディーゼル乗用車がすでに新車の半 分を占める欧州で販売を強化。ガソリン高で燃費が見直されている米国にも投入 の色気を見せ始めた。日本では年内に独ダイムラークライスラーがディーゼル乗 用車を輸入販売する。外資の参戦を機に日本勢が対応を迫られるかもしれない。 「ディーゼル戦線」は欧州から日米へとじわじわ広がる可能性が出てきた。

欧州でディーゼル戦略強化

地球温暖化問題への関心が高い欧州では、二酸化炭素(CO2)排出量の低 いディーゼルエンジン搭載の乗用車が人気を集めている。トヨタ自動車は欧州で の販売拡大を狙い、ディーゼル戦略を強化。2月には5年ぶりに全面改良したS UV(多目的スポーツ車)「RAV4」に排気量2200㏄の最新鋭ディーゼルエ ンジンを搭載して販売する。

高級車ブランド「レクサス」でも昨年11月の高級セダン「IS」に続くデ ィーゼル車第2弾を投入する。07年をめどに最上級SUV「LX(日本名ラン ドクルーザー シグナス)」に初のディーゼル車を設定した。LXはパリ・ダカ ールラリーへの参戦などで欧州でも知名度が高いため、全面改良を機に投入を決 めた。

ホンダは03年に自社製ディーゼルエンジンを初めて開発、主力車種「アコ ード」に搭載し同年9月発売した。昨年はSUVの「CR-V」、ミニバン「F R-V(日本名エディックス)」のディーゼル版を投入。今年は新型「シビッ ク」のディーゼル版を発売するなどラインナップを拡充している。日産自動車も 提携先の仏ルノーと連携を進め、共同開発した新型ディーゼルエンジンを昨秋か ら欧州発売の新車で使っている。

ドイツ、フランスなど欧州主要5カ国の04年の新車台数は約600万台。こ のうち、ディーゼル比率は51.4%と2台に1台がディーゼル車という結果だっ た。矢野経済研究所では、欧州でのディーゼル車市場について、今後も緩やかに 成長し、2010年には約690万台、15年には750万台規模になるとみている。

ホンダ、日産が米投入を表明

米国市場へのディーゼル車投入は昨年、日産自動車とホンダが表明。日産自 のカルロス・ゴーン社長は11月、「大型ピックアップトラックやSUVで、デ ィーゼル車の投入準備を進めている」と語り、ホンダの福井威夫社長も12月、 「米国が考えている規制値を十分クリアしたディーゼルエンジンで、コストの見 通しが十分立てばニーズはある」などと話し、大型車への搭載を示唆した。

ガソリン高の影響により、米国では燃費効率の悪い大型車の販売が低迷。ト ヨタやホンダに比べ、特に大型車への依存度が高い日産自にとってダメージは大 きかった。昨年10、11月にはピックアップトラック「タイタン」の販売が前年 同月比2ケタ減と不振。ガソリン車に比べ、2割ほど優れた燃費性能を持つディ ーゼル車の投入でばん回したい考えだ。

米国ではミニバン、SUV、ピックアップトラックといったライトトラック 市場でディーゼル需要が存在するが、全体的にガソリン車のほうが強い。しかし、 05年には燃費・低公害車への税制優遇策が成立し、ガソリン価格の高騰によっ て燃費効率に対する関心も高くなっており、「ディーゼル車の普及に向けて環境 が整いつつある」(東洋証券の横山泰史アナリスト)。

04年の米国のディーゼルタイプの乗用車・ライトトラック市場は約38万台。 うち、乗用車が3万台、ライトトラックが35万台。矢野経済研究所では、同市 場が2015年には約82万台と04年比で2倍以上の規模に膨らむと推測、ディー ゼル車拡大をけん引するのは特にライトトラックとみている。現在のディーゼル 車市場は、乗用車で独フォルクスワーゲン、ダイムラーのベンツが、ライトトラ ックでは米ゼネラル・モーターズ、フォード・モーター、クライスラーが強い。

経産省が普及後押しの報告

日本のディーゼル乗用車市場に目を移すと、04年は約5000台、シェアはわ ずか0.2%と極端に少ない。1990年には約27万6000台、シェアは6.4%あった が、過去15年間で9割以上も規模が縮小した。石原慎太郎・東京都知事が99年 に始めた「ディーゼルNO作戦」。特にペットボトルに入った煤を振りかざした パフォーマンスは「ディーゼル車=悪」という強烈なイメージを植え付けた。

こうした背景もあって、国内のディーゼル乗用車はトヨタのSUV「ランド クルーザー」や「ハイラックス」などしかなく、大半がバンなどの商用車に限ら れている。しかし、ディーゼル車の性能は進化。その燃費の良さは京都議定書で 掲げられたCO2削減にも効果的で、温暖化対策の救世主として見直され始めて いる。石油連盟では、国内のガソリン乗用車の10%がディーゼル車になると年 間370万トンのCO2が削減できるとの試算結果を発表するなどディーゼル車の 有効性をアピール。

経済産業省も04年秋に立ち上げた「クリーンディーゼル車の普及・将来見 通しに関する検討会」の最終報告書を昨春にまとめ、ディーゼル車の大幅な性能 向上や、普及による経済的メリットなどを多角的に分析した。矢野経済研究所は、 08年から少しずつ拡大し、15年には約35万台、シェアは11%まで増加すると 予測。今後はディーゼル車の使用によりCO2削減を遂行することが求められ、 政府からの補助金制度が開始されるともみている。

そして、こうした流れに先鞭をつけたのが、昨年11月にベンツ「Eクラ ス」のディーゼル車を06年に日本市場に投入すると正式に発表したダイムラー だ。日本では今、ガソリンエンジンと電気モーターで走るハイブリッド車の存在 が環境対応車として目立つ。先行するのがトヨタだ。日本の高級車市場で過半数 のシェアを握るベンツにとって、トヨタの高級車ブランド「レクサス」のハイブ リッド車はまさに脅威。ハイブリッド戦略で出遅れたダイムラーは、技術力で自 信を持つディーゼル車で対抗する構えだ。

成功のカギ

欧州に続き、米国、日本でディーゼル車が普及するかどうかは意見が分かれ るところだ。野村証券金融経済研究所の杉本浩一アナリストは「両市場に共通す るのはディーゼル車のイメージの悪さ」と指摘。米国では「一部のセグメントで 需要があり、商品展開を進めるうえで無視することはできない」と言うものの、 日本では「ディーゼル車に対するアレルギーが強く、普及は考えにくい」(クレ ディ・スイス・ファースト・ボストン証券の岩井徹アナリスト)との声が少なく ない。

しかし、ホンダの福井威夫社長は、加減速を伴う走行で性能を発揮するハイ ブリッド車と比べ、「東京-大阪間といった長距離走行ではディーゼル車の方が いい。ディーゼル車は日本でも活躍する機会がある」と分析。「米国対応のでき るディーゼルができれば、日本にも持ってくることができる」と日本でも投入す る可能性を示している。

トヨタの渡辺捷昭社長は「ディーゼルエンジンの排ガス・騒音は改良されて きており、ポテンシャルはある」と述べるにとどめており、トヨタの日米でのデ ィーゼル戦略を現時点で明確に打ち出していない。ハイブリッド車を推進するト ヨタとしてはディーゼル車を強く打ち出しにくい立場にもある。

しかし、岡三証券の岩元泰晶アナリストは「トヨタの欧州でのディーゼル戦 略を見れば、いつでも他市場でスタートできる準備ができている」と読む。トヨ タの場合、例えば、欧州市場にレクサスのディーゼル車を投入しているため、こ れを日本で展開してダイムラーに対抗することも容易だ。

岩元氏は「トヨタの場合はガソリン車とディーゼル車との収益格差は大きく ないが、ホンダの場合はガソリン車に比べ、ディーゼル車のコストが高い。現状 のままではディーゼル車が増えれば増えるほど台あたりのマージンが薄まる」と 話し、ホンダの場合はディーゼル車のさらなるコスト削減が必要とみている。

さらには、日米の規制は欧州に比べて厳しく、欧州仕様のディーゼル車を現 状のままでは日米に持ち込めない。ディーゼル排ガス規制値をPM(粒子状物 質)でみると、欧州(ユーロⅣ)では0.025g/km。これに対し、日本(新長期 規制)では0.014g/km、米国(Tier2)では0.01g/マイル。日米の規制値 をクリアできるレベルにまで技術を引き上げることが必要だ。市場に合わせた車 種を投入することは重要だが、「パワートレインを変えるのは生産効率も悪い」 (野村証券の杉本氏)。

ハイブリッド車と並び、「環境に優しい車」としての存在感を高め、再び脚 光を浴び始めたディーゼル車。欧州では「ディーゼル車VSディーゼル車」とい う戦いが激化し、この戦線が今後、米国や日本にも波及する可能性が出てきた。 矢野経済研究所の調査では、世界のディーゼル車市場は2015年に04年比で約 36%増の868万台に達する見通しだ。

各社がディーゼル戦略で成功するためには、収益シナリオを確実なものとし、 「まずは欧州での地盤を築くことが先決。それが日米での成功にもつながる。他 市場への展開ではスタートで出遅れないことが大切」と岡三証券の岩元氏はみて いる。

午前10時12分現在、トヨタの株価は前日比10円(0.2%)高の6060円、 日産自は4円(0.3%)高の1265円、ホンダは50円(0.8%)安の6600円。

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