ソフトバンク孫社長:資金投下の「果実」享受-来期は黒字転換か(2)

ソフトバンクの孫正義社長は、これまでに投 下した資金の成果を享受し始めた。あおぞら銀行株式の売却で1000億円以上の 資金を手に入れ、子会社ヤフーは東証1部上場で含み益は拡大している。日本 株上昇にも助けられて出資企業の株価も軒並み上昇、ソフトバンクの時価総額 と株価は第2四半期(7-9月期)の3カ月間だけで2倍以上に拡大した。

ソフトバンクは10日に9月中間決算を発表する。中間期の収益を予想して いるアナリストは少ないが、大和総研の上野真・企業調査第二部シニアアナリ ストは中間連結純損失を500億円と見込んでいる。4-6月期は347億円の純 損失を計上しており、7-9月期では150億円強の赤字となった計算だ。

本業のADSL(非対称デジタル加入者線)によるブロードバンド(高速 大容量)通信事業「ヤフーBB」は先行投資を続けている。期間損益の赤字は ヤフーBBの顧客獲得費用が主因。アナリストは今期(2004年3月期)まで赤 字が続き、来期に損益が黒字化すると予想している。

期間損益が水面下にあるにもかかわらず株価が急上昇しているのは、ソフ トバンクの社名の通り、「バンク」(企業の株式を持つ銀行)の側面があるから だ。日本株が上昇すると保有株の含み益も増加してソフトバンクの株価を押し 上げる。特に含み益の4分の3を占めるヤフー株の水準がソフトバンクの株価 を左右する。

ソフトバンク株に8月から本格的な投資を開始した中央三井アセットマネ ジメントの鈴木誠・運用第一部シニアファンドマネージャーは「投資会社とし て評価して購入した。狙いどおり株価は上がっているが、上げスピードが速す ぎるのはちょっと怖い」とうれしい悲鳴を上げている。

鈴木氏は、中央三井日本優良株ファンド「プロセレクト」で50億円規模の 資産を運用している。ソフトバンク株とヤフー株合わせて当初資産の各2- 3%程度を組み入れる見当で投資したが、購入後の株価上昇で2社の株式は資 産の1割程度まで膨らんだ。

孫社長、所得税換算で年収は10億円強

ソフトバンクの孫社長は9月19日、文化放送のラジオ番組に出演、「人生 50年計画」について「大体そんな感じで進んでいる」と述べた。人生50年計画 とは、「20歳代で名乗りを上げ、30歳代で軍資金を最低1000億円確保、40歳代 で勝負して、50歳代で事業を完成させ、60歳代で後任に引き継ぐ」というもの。

1957年生まれの孫社長は今年46歳になり、まさに現在が「ブロードバンド 拡大」という勝負の真っ最中にある。孫社長は高額納税者(いわゆる長者番付) の常連、2002年分の所得税額は3億6853万円で番付40位、個人に適用される 最高税率37%と控除額から逆算すると年収は10億円強になる。

ソフトバンクの株価と時価総額は7-9月の3カ月間で2.1倍となった。 9月末の株価は4720円、時価総額は1兆6000億円弱に達した。株価は6月末 から上げ始め、9月末まで上昇基調を継続。さらに10月17日には今年最高値 となる7370円まで上昇した。11月7日終値は5390円、時価総額は1兆8161億 円。

株価上昇の契機になったのは6月30日発表のあおぞら銀行の売却発表(実 際の売却は8月下旬)。その後にもオンラインゲーム専用インターネット玄関 (ポータル)サイト開設、ヤフーの東証上場申請発表(10月28日上場)、日経 平均の構成銘柄に採用されるとの期待(実際は採用されず)も加わった。

さらに「ヤフーBB」の端末資産(モデム)の流動(証券)化という新た な資金調達の手段も導入し、その第一弾として7月末に190億円を調達した。

この間、日本株や米国株も上昇基調に入り、投資会社としてのソフトバン クの株価を押し上げた。日米のヤフー、ソフトバンク・インベストメントやソ フトバンク・テクノロジーといったグループ企業株式での含み益は9月末で1 兆5039億円とこの3カ月間で5033億円、率にして50%増加した。

8月初めの第1四半期(4-6月)決算では巨額赤字を発表したが、株価 は下げなかった。株価上昇とともに社債の国債との利回り格差(スプレッド) も低下、社債の信用力も回復している。

社債(償還期限2005年9月21日、利率3%)の6日終値気配は99円49 銭、利回りは3.29%、ブルームバーグ・データによる同年限の国債との利回り 格差(スプレッド)は315ベーシスポイント。この格差は6月末には700ポイ ント後半で推移していたが、9月から急低下している。

投資家はソフトバンクについて、本業の期間収益よりは投資会社としての 側面をみている。7-9月期の株価上昇は「ヤフーなどの株価が上がったこと を評価して投資家がソフトバンクを買い進んだのが背景」(UFJつばさ証券 の曽根基春・エクイティ調査部シニアアナリスト)だ。

顧客獲得費用は圧縮

赤字が続いている本業のADSLでも変化の兆しがみられる。ヤフーBB の接続機器を街角で配る、いわゆるパラソル部隊で不採算拠点を順次閉鎖、7 -9月期は顧客獲得費用を圧縮した。孫社長自らが選んだ女優の広末涼子さん を起用したテレビCMを8月中旬から放映して新規費用が発生しているが、 「4-6月に比べると顧客獲得費用は減らした」(曽根氏)もよう。

ADSL加入者数は9月末でソフトバンクが324万8000人、前月比で15 万5000人増加した。一方、NTTグループは343万5000人、同10万6000人 増加した。加入者数はNTTグループ逆転が視野に入ってきた。

ヤフーBB事業は、新規の顧客獲得費用を除くと営業損益は6月に5億円 の黒字に転換し、新規顧客獲得を止めたと仮定すれば、期間損益はすぐに黒字 に浮上する。こうしたなかでも孫社長は今期(2004年3月期)末で400万人と いう顧客獲得目標を掲げて新規顧客獲得のための投資を続ける。

孫社長、八丈島に飛ぶ

孫正義社長は8月4日、八丈島に飛んだ。ブロードバンドを可能にするA DSLのヤフーBB設置を求める声に応えて、地元でブロードバンドへの思い を語った。早ければ来年春にも八丈島にADSLが開通する見通しだ。

孫社長を八丈島に呼んだのは、ライバルNTTグループのドコモ子会社社 員の浅沼泰英氏。NTTが八丈島へのADSL設置に色よい返事をしなかった ため、知り合いを通じて孫社長に話をしたという。

これを受けて孫社長は八丈島を訪れ、「わずか40人あまりの参加者を前に 八丈島でのADSL導入の可能性を熱く語った」(清水紀行・八丈島にブロード バンドを推進する会事務局長)。孫社長の行動は宣伝色が強いとはいえ、目先の 採算より先にまず市場シェアを確保、拡大するという現在の経営方針を象徴す る実例といえる。

ヤフーBBの顧客獲得費用で前期(2003年3月期)決算は1000億円の連結 純損失を計上した。今期純損益についても大和総研の上野アナリストは785億 円の赤字、UFJつばさ証券の曽根アナリストは600億円の赤字と巨額の損失 を予想(会社予想はなし)している。

アナリストは来期(2005年3月期)については、顧客獲得が一段落して費 用が減少することから、純損益をそれぞれ140億円の黒字、170億円の黒字と予 想している。こうした見通しに対して、ソフトバンクの投資家は「ヤフーBB 本業でも、何とかしてくれるはず」(中央三井アセットの鈴木氏)と孫社長に期 待している。

孫社長は日本橋箱崎の本社ビルに到着すると、2日に一度は17階の社長室 まで階段を一歩一歩登る。健康に留意するのはもちろん、本格的に再開したゴ ルフに備える意味もある。特にドライバーの距離は気にしている。

投資会社としての側面が注目されて株価が上昇している間に、投資家が見 て見ぬふりをしている期間収益を黒字転換できるかどうか、この課題に孫社長 はゴルフの体力強化同様、一歩一歩実績を出して応えていかないと、期待が過 度に先行して株価が崩落したネットバブルの二の舞いになり、投資家を離散さ せることにもなりかねない。

--*東京 上野 英治郎 Eijiro Ueno (813)3201-8841

鈴木 宏 Hiroshi Suzuki e.ueno@bloomberg.net Editor :Okubo

企業ニュース:JBN18

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