米経済コラム:裁かれているのは人間の本性だ

ウォール街のスキャンダルをど う考えたらよいのか、わたしたちは今まで法律家、会計士、規制当局、報道関 係者などの声に耳を傾けてきた。しかし、米マサチューセッツ州当局がスイス の銀行クレディ・スイス・グループ傘下のクレディ・スイス・ファースト・ボ ストン(CSFB)を提訴するに至って、これらのスキャンダルについて理解 するには心理学者や文化人類学者の助けが必要だという気がしてきた。

同州が提訴の根拠として公表した電子メールは、それ以前のほかの訴訟で 明らかになっていた事実をあらためて裏付けるものだった。それは、ウォール 街の生活はだまし討ち、うそ、裏切りに満ちた利己主義者たちのメロドラマだ ということだ。この構図を見て驚くのは、投資銀行がいかに奇妙で変わった場 所であるかではなく、いかに普通の会社と同じであるかという点だ。

大企業に勤める者の多くは、ウォール街のニュースを読みながら「うちの 会社と同じじゃないか」という思いを禁じ得ないだろう。保身にきゅうきゅう とする上司、昇進したさにうそを並べるおべっか使い、人が背中を向けたすき にグサリとやる同僚、部門同士の反目、顧客を見下す従業員、ばかげた会社規 則を鼻で笑う社員。どれをとっても思い当たる。

まるでジャングル

実際、原告側がそろえた証拠を並べると、人間の虚栄と自己欺まん、卑劣 な意地悪を行う能力に関する優れた論文が出来上がる。CSFBのテクノロジ ー部門がいい例だ。マサチューセッツ州の訴状に描かれたそこでの生活は、さ ながらジャングルの野生動物のドキュメンタリー番組だ。地位の低いサルがボ スザルの気を引こうとして一日中踊りを続けている。

訴状によれば、投資銀行の規則はこうだ。①企業については良いことしか 言うな②ほかのアナリストに同調しろ。これではアナリストの仕事の意味はな いが、「チーム・プレーヤー」として認められ、ボーナスをもらいクビにならな いために、アナリストはこれらの規則に従うしかなかったと訴状は指摘してい る。これはジャングルのおきてだ。そして会社のおきてでもある。

カネと成功

企業の従業員は、真剣に受け止めるべきとされる事柄について、いつも冗 談を言い合っているものだ。スピッツァー・ニューヨーク州司法長官がかつて 明らかにした電子メールのなかで、メリルリンチの元人気アナリストのブロジ ェット氏は、「買い」を推奨した企業を「ゴミ」と呼んで皮肉っているが、これ は公には認められないが社内で広く受け入れられていた考えを、電子メールの なかで口にしたにすぎない。

投資銀行は世界で最も給料が高いところだ。大金は、大きくて騒々しくて 乱暴なエゴを引き寄せる。バブルの絶頂期には、ウォール街のバンカーたちが 持つ最悪の本能が助長された。カネと成功は悪の温床だ。ウォール街に限った ことではない。ヒット曲を出したバンドを抱えているレコード会社に聞けば分 かる。

ウォール街の悪行を糾弾することは、このところ急激に正義の様相を帯び 始めている。CSFBや他の投資銀行は、会社であるという理由で訴えられて いる。だが、少なくともある部分において、ニューヨーク州やマサチューセッ ツ州が裁こうとしているのは人間の本性ではないかという気がする。 (マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラム の内容は同氏自身の見解です)

ロンドン Matthew Lynn、 東京 木下 晶代 Akiyo Kinoshita、 --* (03) 3201-8394 akinoshita2@bloomberg.net Editor:Kakuta

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