障がい者コミュニティへの理解と共感を深める―当事者に配慮した表現とは
2021年12月10日

インクルーシブな社会の実現には、私たちが日々使う言葉や表現も重要な役割を果たします。適切な用語や言い回しを使うことで、社会から誤解や疎外を受けてきた人々への理解と共感も高まります。
障害に関する用語は急速に変化し、当事者への配慮が優先される傾向が強まっています。米国の「障害とジャーナリズムに関するナショナルセンター(NCDJ)」は、独自のガイドラインでさまざまな用語の背景や留意点を説明しています。
※日本語訳註:「障がい」と「障害」に関する日本語表記については、ページ下方の説明をご参照ください。
こうしたガイドラインでは、相手が望む用語や呼称を尋ねる「パーソン・ファースト」(障害ではなく人)、あるいは個々の障害に重点を置いて人物を説明する「アイデンティティ・ファースト」(障害ではなく個性)を原則とした言葉が使われています。用語の運用は国や地域によっても違いがあるため、適切なリソース(シンガポール障がい者協会の用語集や国連アジア太平洋経済社会委員会)で使用されている用語を随時確認することも推奨されます。
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「パーソン・ファースト」の言葉は、どんな人もまずは1人の人間であるという基本認識から出発します。障害がその人を定義する訳ではありません。一方「アイデンティティ・ファースト」の言葉は、障害が決して恥ずべきことではなく、アイデンティティの一部だという考えに基づいたエンパワーメントを重視しています。
NCDJガイドラインに掲載されている用語をいくつか紹介しますので、インクルーシブな社会づくりについて考えるための基礎知識として役立ててください。
Abnormal/abnormality(異常)
用語の背景:医療用語として使用する限りにおいて、「異常」という言葉自体には問題はありません(例:脊椎の異常な湾曲、検査結果で異常を発見など)。しかし個人を描写する言葉としては、軽蔑的な表現とみなされるのが一般的です。
NCDJ による推奨:個人を説明する際に「異常」という言葉を使わないようにします。同様に障害のない人を「正常」や「健康」と表現しないように配慮します。(代替表現:林さんは15歳のときに知的障害と診断されました。)
Addict/addiction/alcoholic/junkie(薬物中毒/アルコール中毒者/薬物乱用者)
用語の背景:「薬物中毒者」や「アルコール中毒者」といった言葉は、薬物中毒を抱えている人のことを指していますが、「人」ではなく依存状態に重点が置かれています。これらの言葉には、自制心の欠如といったネガティブな意味も含まれます。
NCDJ による推奨:症状を説明する際に「中毒」や「乱用」といった言葉を使うこと自体は問題ありません。それでも薬物やアルコールの乱用者を説明する際は「依存症」や「依存の傾向」といった具体的な症状を用いるのが適切です。誰かの発言を直接引用する場合を除き、「ジャンキー」や「薬中」といった言葉は使わないようにします。(例:溝口さんはオピオイド依存症を抱えていますが、SNSで薬物依存やメンタルヘルスに関する啓発活動に取り組んでいます。)
Afflicted with/stricken with/suffers from/victim of(~に見舞われた/~に苦しんでいる/~の被害者)
用語の背景:障害のある人々が例外なく苦しんでいたり、障害のある人々の生活の質が他の人よりも低いという思い込みから生じる表現です。障害のある人すべてが苦しんでいるわけではなく、すべての人が自分自身を被害者だと感じているわけでもありません。
NCDJ による推奨:障害のある人について説明するときは、事実に基づいた中立的な言葉を使います。(例:金子さんは筋ジストロフィーです。)
Crazy/ disturbed/ insane/mad/ psycho/nuts/deranged/unstable(狂人/精神錯乱/情緒不安定/精神異常/ノイローゼ/サイコ)
用語の背景:以前は精神障害のある人々を説明するのに使われていた用語ですが、現在は不正確で不快感を与える表現とみなされています。
NCDJ による推奨:精神障害に言及する際は、第三者の発言を引用するのでない限り、これらの用語は使わないようにします。言及が必要な場合には、具体的な症状を説明します。(例:田中さんは双極性障害です。)
Cripple(びっこ/かたわ)
用語の背景:この用語は20世紀の初めに不快感を与える差別表現とみなされるようになり、「ハンディキャップ」という用語に置き換えられ、その後「障害」という言葉が使われるようになりました。
NCDJ による推奨:差別表現は使わないようにし、適切な用語や呼称を当事者に確認します。(例:安藤さんは交通事故が原因で足を切断しました。)
Defect/birth defect(奇形/不具)
用語の背景:これらの用語は、「欠陥がある」または「劣っている」ことを暗に意味するため、障害への言及で使うと多くの人が不快に感じます。
NCDJ による推奨:障害について説明する際には「不具」などの言葉を使わずに、障害または怪我の性質を説明します。(例:小林さんは生まれつき心疾患があります。)
Differently abled/handi-capable/challenged(人とは異なる/ハンディを乗り越える/チャレンジを抱えた)
用語の背景:これらの用語は、「ハンディキャップ」や「知恵遅れ」といった軽蔑的な呼称に代わる用語として、20世紀後半から21世紀初頭にかけて広く使われていました。しかし障害のある人々を見下す婉曲的な表現であるため、不快感を与えます。
NCDJ による推奨:一般論として話す場合には、「障害のある人々」という表現を使います。特定の人について話す際には、どのような障害なのか具体的に説明します(「トゥレット症候群のある人」など)。確信がない場合には、当事者に確認します。(例:障害のある人々は、障害そのものに言及した表現を好む場合があります。)
Disabled people/people with disabilities(障害のある人々/障がい者)
用語の背景:「障がい者」(disabled people)という言葉は、「パーソン・ファースト」ではなく「アイデンティティ・ファースト」の一種として英国や米国のアクティビストたち(障がい者の権利向上に取り組む活動家)の間で好まれている用語です。アジアでは、「障害のある人々」(persons/people with disability)という表現が好まれています。障害のある人々を支援するアメリカ国内の団体(特に手話コミュニティや自閉症の権利運動コミュニティ)では、個人のアイデンティティに焦点を置いた「アイデンティティ・ファースト」の表現が好まれる傾向にあります。
NCDJ による推奨:個人について説明する際には、本論と関連がない限り障害に言及しないようにします。言及の必要がある場合には、まずその個人に言及し(パーソン・ファースト)、その後に障害に言及します(ディサビリティ・セカンド)。例えば、「障害のある作家」ではなく、「彼/彼女は作家で、障害があります」と言い換える配慮です。可能な限り、具体的な障害の内容を表す表現を使うか、当事者や関連団体に適切な用語を確認しましょう。(例:宮本さんが所属している団体は、低所得で障害のある人々に支援テクノロジーを届けています。)
Handicap/handicapped(ハンディキャップ)
用語の背景:現在、この用語は障がい者コミュニティでは支持されていません。
NCDJ による推奨:障害について説明する際は「ハンディキャップ」という言葉を使わないようにします。障害の具体的な内容に言及するか、「障害のある人」という表現を使うようにしましょう。法律、規制、場所、物(ハンディキャップパーキングなど)に言及する場合は例外です。(例:渡辺さんには障害があります。)
Idiot/imbecile/moron(きちがい/白痴/痴愚)
用語の背景:これらの用語はすべて、精神障害や知能障害のある人々を侮辱する差別用語です。さまざまな意味で用いられることがありますが、障害のある人々の気分を害する極めて不快な表現です。
NCDJ による推奨:これらの用語は使わないようにします。この用語は「知恵遅れ」と同じように差別用語です。直接引用する場合でも、これらの言葉を発することが絶対に必要なのか熟考してください。どうしても必要な場合には、障害の具体的な内容を説明するか、「障害のある人々」と言います。(例:川上さんは、自閉スペクトラム症の人々を支援しています。)
Invisible disabilities(目に見えない障害)
用語の背景:障害という言葉を聞くと、車椅子や手足の障害を思い浮かべる人も多くいますが、この認識は変わりつつあります。障害の法的な定義を拡大して、目に見える障害のある人々と目に見えない障害(聴覚障害、精神障害、慢性疾患など)を持つ人々の両方を守ろうとする国が増えています。
NCDJ による推奨:当事者に確認するまで「目に見えない障害」という言葉は使わないようにします。慢性疾患のある人々の多くは、疾患を「障害」として捉えていないため、「目に見えない障害」という言葉を不快に感じることがあります。確信がない場合には、病名を使いましょう。(例:山口さんは、線維筋痛症です。)
Neurodiversity(ニューロダイバーシティ)
用語の背景:「ニューロダイバーシティ」という用語は、自閉症、ADHD、アスペルガー症候群、ディスレクシア、強迫性障害、トゥレット症候群などの発達障害を指します。ただし治す必要がある欠陥としてではなく、人間の脳の正常な多様性として捉え直すために作られた言葉です。
「ニューロダイバージェント」は、脳が情報を処理・学習・機能する方法に、標準的ではない傾向が見られる人々全般を表す用語です。ニューロダイバージェントな人々が、すべて障がい者とは限りません。ニューロダイバージェントには特別な待遇を必要とする人もいますが、多くの人は特別な待遇をほとんど必要としないか、まったく必要としません。
NCDJ による推奨:「ニューロダイバーシティ」と「ニューロダイバージェント」は、どちらも自閉症を含むさまざまな症状の人々を説明できます。しかし比較的新しい用語なので、使用する際は用語自体の説明が必要な場合もあります。これらの用語を自分のアイデンティティとして使わない人もいるので、具体的な障害の名称を用いるか、当事者に適切な用語を確認しましょう。(例:立野さんはニューロダイバージェントで、プログラミングが得意です。
Special/special needs/functional needs(特別/特別なニーズ/機能的なニーズ)
用語の背景:「特別なニーズ」(special needs)と言う言葉は、特別支援教育が推進された20世紀初頭に普及し、世界中で広く使われるようになりました。しかし欧米などでは、障害のある人々を説明する際に「特別」という言葉を使うことが「上から目線」であると見なされ、不快感を与える表現だと考えられるようになりました。そのため、英語圏では「専門教育」(specialized education)といった用語に置き換えられつつあります。
NCDJ による推奨:必要な場合には「合理的配慮」という用語を使います。(例:守口さんは、障害のある人々の合理的配慮に対応するためのプログラムを立ち上げました。)
ブルームバーグが取り入れている「障がい」と「障害」に関する日本語表記
ブルームバーグでは、「障害」が社会に存在する障害物や改善すべき障壁に起因するものであるという解釈にもとづき、もっとインクルーシブな社会を実現するべきだというビジョンから「障がい」と並んで「障害」という漢字表記も許容しています。
しかし、「害」という漢字が良くない印象を与えるという理由からひらがなを用いるべきという意見もあり、日本では漢字・ひらがなの議論が現在も行われています。
ブルームバーグを含めた34社がパートナーシップを締結する一般社団法人ACE(企業アクセシビリティ・コンソーシアム)においても「障害」と「障がい」を併用し、以下のように用字用語ガイドラインが制定されています。
- 「障害」が直接誰かをを修飾する語句の場合は、「害」をひらがな表記にします。
例:障がい者、障がい学生、障がい社員 - 「障害」が直接人に掛からない場合は、「害」を漢字で表記します。なお「障害」は自ら望んで持ったものではないという考え方から、「障害のある」または「障害がある」といった表記を採用し、「障害を持つ」という表現は原則として使いません。
- 障害」「障がい」が固有名詞に含まれる場合は、公式な表記に従います。
例:障害者手帳、障害者差別解消法、NPO法人障がい者就業・雇用支援センター
NDCJのガイドライン全文をPDFファイル形式でこちらからダウンロードできます(英語)。