【FRBウオッチ】公定歩合で「籠城作戦」開始、公的バブル膨張へ
2月18日(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)は18日、公定歩合を0.25ポイント引き上げて、0.75ポイントとすると発表した。歴史的な大雪で政府機関の機能がまひした状況で、バーナンキ議長が超金融緩和の「出口戦略」を発表してから8日目という早いタイミングだった。
FRBは公定歩合の引き上げについて、連銀貸し出しの正常化をさらに進めるもので、「経済や金融政策の先行き見通しの変更を示すシグナルではない」と断った。公定歩合を適用する連銀窓口貸し出しは形骸化しており、その変更は象徴的な意味しか持たない。
バーナンキ議長は10日に議会証言テキストという形で発表した「出口戦略」の第1段階として、信用市場凍結を解くための緊急貸し出し政策の終結を挙げていた。これらの緊急政策は既にあらかた終了しており、緊急事態解除のメッセージをより明確に伝えるため、FRBは「遠くない時期」に公定歩合の引き上げに転じると表明していた。この「遠くない時期」が8日後だったわけだ。
同議長の狙いは、「出口戦略」実行への準備態勢を示して、市場のインフレ懸念を押さえ込み、超金融緩和状態を長く続けることにある。これは「出口戦略」というよりも、超金融緩和の「籠城(ろうじょう)作戦」と言い換えたほうがより実態に近い。そして、本格的な「出口戦略」の遅れは、グリーンスパン前議長時代と同様、バブル膨張リスクを抱え込む。
準備預金の金利引き上げへ
バーナンキ議長が公定歩合引き上げに次いで実行すると表明していた、民間銀行が連邦準備銀行に持つ準備預金口座に適用する金利の引き上げも予想より早まる可能性が出てきた。ただ、準備預金金利の引き上げは金融システムにあふれかえっている資金をほぼそのままにして、その一部を連銀口座に移す措置。本来なら、超金融緩和で金融システムに与えられた潤沢な資金が家計や企業など一般経済に流れ出し、経済成長につながるはずだ。
しかし、この健全な経路が目詰まりを起こしているため、家計や中小企業には十分なお金が行き渡っていない。FRBはその目詰まりを直す努力はせずに、実体経済へと向かうべき資金の流れに逆行する形で、一部の資金をいったん連銀に引き戻すことを狙っている。実体経済よりも、金融システムを重視するFRBの姿勢が図らずも露呈された格好である。
「量的緩和」
バーナンキ議長は市場でインフレ懸念が高まることを恐れており、事実上のゼロ金利政策をいつまでも続けられないと考えている。といっても、失業率が高い現状では従来式の利上げをすることもできない。そこで、FRBはインフレを警戒しているというジェスチャーを示し、資金吸収による本格的な利上げを避けながら、市場を安心させようとしているわけだ。
実際、バーナンキ議長は「金融システムに非常に大規模な資金が存在する結果、フェデラルファンド市場の活動や流動性の水準が著しく低下している」と指摘。「FF金利は短期市場の指標としての信頼性を失ってきた」と述べた。
こうした短期市場の構造変化にのっとり、バーナンキ議長は連銀準備預金の金利と準備預金の量を政策目標にする方針を示唆した。日銀が量的緩和に使った準備預金の量を指標に利用しようというもので、「量的緩和」の領域にとどまるとも言える。つまり、準備預金金利引き上げという裏技で名目金利水準は上昇するものの、せいぜい0.5%というゼロ金利の制約内にとどめ、一方でじゃぶじゃぶの量的緩和を継続するというわけである。
ライル・グラムリー元FRB理事は、バーナンキ議長の「出口戦略」について、「現時点では金融政策の引き締めを考えていないものの、物価安定を確実にする準備ができていると人々に語りかけているものだ」と指摘した。
長期「時間軸」を堅持
実際、バーナンキ議長は本来の利上げであるFF金利の誘導目標引き上げのめどについて、まったく触れなかった。その一方で、「経済状況が長期間にわたってFF金利の異例の低水準を正当化する可能性が高い」という米連邦公開市場委員会(FOMC)声明の長期時間軸を表明。FRBは18日の公定歩合引き上げ声明でもこれを繰り返した。
明確な「出口戦略」を打ち出せば、長期間に及ぶ「時間軸」は消える。それが消えないのは、「出口戦略」が不明確である何よりの証拠である。市場に明確なメッセージを伝えるといってFRB議長に就任したバーナンキ氏だが、実態は最大限の不透明さを駆使して難局を切り抜ける構えだ。
したがって、明確にしたのは公定歩合と連銀準備預金口座への付利引き上げという擬似引き締めまでで、第3段階になる本格的な利上げ開始のめどさえまったく示されなかった。そして、第4段階の住宅ローン担保証券(MBS)の売却については、「経済成長が成熟してから実行する」という予測不能の領域まで引き延ばしている。
遠い「最大限の雇用確保」
経済成長の成熟とは、景気回復過程で景気に大きく遅行する雇用が明確に回復し、連銀が義務付けられている「最大限の雇用確保」の展望が開かれることだろう。
1月のFOMC議事録によると、会合メンバーの失業率見通し(中央レンジ)は3年後の2012年第4四半期で6.6-7.5%と、なお2001年景気後退後ピークの6.3%を上回る。FOMCメンバーは完全雇用水準を失業率で見て5.0-5.2%と想定しており、「最大限の雇用確保」は現時点では見通せない。
2003年に始まった前回の超低金利の時間軸作戦は04年1月にFOMC声明の文言を「相当の期間」から「金融緩和策の解除に向けて辛抱強くなれる」へと変更。さらにその4カ月後の5月のFOMCで「緩和政策を慎重なペースで解除する」と進み、同年6月に0.25%の利上げに踏み切った。グリーンスパン前議長は利上げ実施後も「慎重なペースで緩和を解除する」と時間をかけたため、バブル膨張を許してしまった。
ギリシャ並み
バーナンキ議長が08年12月に「長期時間軸」を設定してから、既に14カ月が経過。なお「時間軸からの出口」はまったく見えない。FF金利水準も前回の基点よりはるかに低い「事実上のゼロ金利」。準備預金の金利引き上げという擬似利上げの後に続く、本格利上げへの見通しも不透明のままだ。
バーナンキ議長は10日の証言テキストで、最終的にFRBのバランスシートを米国債中心の姿に戻すと表明した。しかし、財政赤字は急激に膨張しており、今年度は米国内総生産GDP比で11%に達する。ワシントンの政治情報に強いローカル紙エグザミナーは米国の財政赤字について、「ギリシャ並み」と酷評している。
FRBのバランスシートが本来の姿に戻ったときに、米国債が現在のMBSよりひどい「有害物質」になっていたという悪夢にもなりかねない。米民間債務バブルの破裂は、準備通貨ドルの威光を背景に公的バブル膨張で克服が可能かもしれない。しかし、その公的バブルが破裂すると、基軸通貨としてのドルの地位は危うくなる。
米国は基軸通貨を失えば、欧州連合(EU)の後ろ盾のあるギリシャよりももっと厳しい立場に追い込まれかねない。そして、ドルが世界経済を主導してきただけに、米公的バブル破裂の影響はリーマン・ショックをはるかに凌ぐものになるだろう。春には溶けるワシントンの豪雪とは異なり、雪解けのない冬の時代が世界を覆いかねない。
記事に関する記者へ の問い合わせ先:ワシントン 山広恒夫 Tsuneo Yamahiro tyamahiro@bloomberg.net
更新日時: 2010/02/19 09:45 JST